朝、目覚めはイマイチだった。水を大量に飲み、タクシーで向かおうと思ったが、歩いても行けるんじゃないかという気持ちになり、歩き始めた。5月半ば、すでに蒸し暑く、また水を買った。途中、目的地はかなり遠いところにあるのでは、と思い始めた。まったく着く気配がしないのだ。この山道を行けば近いのか、と獣道を行こうとしたが、バスが通る道の方が確かだろうと、ひたすら歩いた。30分ほど歩き、ようやく目的の建物らしきものが現れた。大きな門のところに警備員がいて尋ねると、入場門はぐるっと回って裏側とのこと。ふうと大きなため息をつき、歩く。

目的地、宇都宮競輪場
やっと着いた目的地、宇都宮競輪場は山の上にあった。大きな階段を登り、入門。日曜日ということもあり、沢山の人がいた。引退したばかりの地元のレジェンド、神山雄一郎も来ていて、彼が走るエキシビションレースがあるので、さらに賑わっていたのかもしれない。それにしても驚いたのは客層だ。老若男女、かなり幅広い客がいたのだ。休日のショッピングモール、は言い過ぎかもしれないが、野球や他のスポーツの観戦並みではないかと思った。ふと前日に見たTVのバスケの試合を思い出した。やはり栃木、宇都宮はスポーツに力を入れているのではないか。小さい頃から自転車競技に親しんでいて、これもスポーツ観戦の一環として受けいれられているのか。ともかく、雰囲気は和やかであった。家族連れ、夫婦、友人、若者ら。子供たちも沢山いる。普段競輪場にいるオヤジたちの方が、劣勢であった。間違ってもここは「賭場」である。これが最先端の賭場の在り方なのか。地元のエース、眞杉匠を見に来たが、前日の準決勝で失格となったため、姿すら見られなかった。最終レースまで十分に楽しんで、山を降りた。帰りはバスに乗った。
駅まで行くと荷物を預けているホテルが遠くなるので、ひとつ手前で降りた。降りるとちょうど目の前に喫茶店があった。ここが渋い店だった。水を運んでくれた女将さんが、おすすめは炭火のアイスコーヒー、と言った。えーと、ホットで、と返したが、いじわるで言ったのではなく、胃の調子がまだ復活していなかったので。新聞をペラペラめくっていると、新規の若い男女が入ってきた。女将さんが、おすすめはアイスコーヒー、他じゃなかなか飲めないわよ、と言った。女性は、じゃあアイスコーヒーを、と言った。男性は、僕はコーヒーが飲めないのでメロンソーダを、と言った。すると女将さんが、あら、コーヒー飲めないの、お子ちゃまね、と言った。一瞬ひやっとしたが、男性は傷ついている感じがなかったので、少し安心した。
店を出る時に、せっかく宇都宮に来たのでおすすめの餃子屋ありますか、と女将さんに尋ねた。あんた、餃子なんてどこで食べても一緒よ、くらい言われるかと思ったが、外に出て丁寧に道案内をしてくれた。女将さんの指のさす方へ、とりあえず向かってみた。

渋い喫茶店。昔の職人が作ったのよ、と女将さん
つづく