東京では、かつて同じ職場で働いたことのある後輩や同業他社の記者が、政府の記者会見でSNSでの誹謗中傷を受けながらも、必死に政治家に食い下がっていた。東アフリカの紛争地では、知人の報道カメラマンが頭から血を流して道に倒れているデモ参加者にギリギリの距離でレンズを向けていた。
そんな彼らの発信するニュースや写真を目にする度に、私は彼らに対する尊敬の念と同時にある種の安堵(あんど)感を覚えた。サン=テグジュペリが砂漠で墜落し、一滴の水も飲めずに砂の大地をさまよい歩き続けていたときに、遭難しても生きることをあきらめなかった僚友のことを考え続けることで自らをつなぎとどめていたように。
そして自分自身が少しずつ変わっていった。私はいつしか自ら所属する組織に寄りかかるのではなく、それぞれの個と個をつなぐ友情という名の命綱を頼りに、この先の人生を切り拓いていけないかと夢想するようになった……。
サン=テグジュペリのかつての往時の姿を知るという101歳のラフダイアムの取材には、親族や町の有力者たちも加わって、結局終わりが午後11時を回ってしまった。
外に出ると満天の星が頭上を覆っていた。当時、サン=テグジュペリが夜間飛行で眺めたあの星空――。
幼少期に読んだ『星の王子さま』の一節を思い出す。
- 「さようなら」キツネが言った。「じゃあ秘密を教えるよ。とてもかんたんなことだ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」
「いちばんたいせつなことは、目に見えない」忘れないでいるために、王子さまはくり返した。
「きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした時間だったんだ」(『星の王子さま』河野万里子訳、新潮文庫)
費やした時間こそが、その人にとっての「かけがえのないもの」を決める。
ならば、これまでアフリカで費やしてきた3年という時間は、私にとって何だったろう。
悲しみや痛み、苦しみや喜びが詰まった3年という時間。
それを費やした場所。
思い出すのは、無数の顔、顔、顔だ。
アフリカ――。
そこは紛れもなく、私にとっての「人間の大地」だった。
(2017年8月)
本連載「アフリカの長い夜」を加筆・再構成した単行本『沸騰大陸』が、2024年10月25日に集英社より刊行されます。