その時、「なるほど、お仕事か」と何だか妙に納得し、これからは仕事を受ける時にはしっかり考えずに返事をするのはやめよう、ちゃんと内容を確認した上でやるかどうか判断しよう、と固く心に誓いました。そして精一杯、その仕事をやり切りました。でも「ユニフォームを着ながらコスプレをして踊る」なんて仕事は、もう一生やりません(笑)。
自分的には後々まで笑えるエピソードができたし、いろいろ勉強になったので、それはそれでやってよかったと思っています。
大切なことを山ほど教わった
話は戻りますが、Aさんはとにかく私を成長させてくれました。ご自身が仕事上で経験した成功談も失敗談も、山のように話してくれました。
心に響いた言葉もたくさんあって、「敵を作るより仲間を作れ」「その人がどんな人が知りたければその人の周りに集まる人を見れば良い」「より成長したいのであれば、付き合う人を変えること」「誰かの顔色を伺いながら仕事するなんて嫌だろ? 気の合う仲間と仕事しようぜ」など、並べていけば一冊の自己啓発本ができ上がりそうなボリュームです。また、「自分が企画書をこれだけ書けるようになったのは、とにかく書いて書いて書きまくったから。最初から書ける人なんていないんだから。営業だってそう。最初からうまく話せる人なんかいない。チョコ氏に足りないのは、もっともっといろんな人に会うことだよ。とにかく失敗してもいいから、もっとやってみること」「チョコ氏はありのままでいい。そのままで当たっていけば、きっと周りが一緒に考えてくれるから」など、弱気になったり迷っている私を励ましてアドバイスをくれました。
様々な相談にも乗ってくれるのですが、あれこれアドバイスをして、考えを整理するまで付き合って、そこからの判断・決断は私自身がやるよう仕向けてくれたんですよね。機嫌が悪い時の私は、「この人は本当に何も決めてくれないな、責任は負いたくないのかな」なんて捻くれて受け取ったりもしたけれど、それはとても浅はかな考えでした。
人って自分で判断・決断しないと、失敗した時に他人のせいにしてしまうんですよね。失敗を他人のせいにしてしまうと成長できない。だからAさんは絶対に「こうしたほうがいい」とは断言しなかったんだろうと思います。おかげで失敗も成功も、どちらもしっかり自分で受け止めることができました。
これに似たような話で、芸能事務所に所属したてのアイドルの卵とかが、「事務所に所属したのに全然仕事くれない、所属した意味ないんだけど!」と、愚痴を言っているのをたまに耳にします。事務所に所属する=人気者にしてくれる=売れる、と考えるのでしょう。でも売れているアイドルというのは、絶対にものすごく努力していると思うのです。もしくは、群を抜いて秀でた何かを持っている人――そのどちらかだと思います。
「ただ待っているだけで、マネージャーや営業の人がいい仕事を持ってきて人気者になれる」
そんな夢物語はないです。結局、何者だろうと最終的には自分で考えて、自分で判断して、自ら行動することが大切なのですね。仕事を通じて声優さんやアイドルタレント、スポーツ選手など様々な職業の人にお会いして、そう思いました。プロゲーマーもそうです。自分で考えて、判断して、行動する。プロゲーマーになったからといって、簡単に注目されるわけでも、誰かが人気者にしてくれるわけでも、誰かが勝手に仕事を持ってきてくれるわけでもないのです。しかも、必要とされなくなれば終わりです。
そこは一つ、今後プロゲーマーになりたいと思っている人や、なったばかりの人には抑えておいてほしいなと思いました。
悩める時にいつも誰かが……
さて、私を支えてくれた人は他にもたくさんいます。私と〈ももち〉が代表となって、「ゲーム」と「人」をつなげるための会社を設立するかどうか悩んでいた頃、思いっ切り背中を押してくれたのがKさんでした。Kさんは私がプロゲーマーとして仕事をする中で知り合った人で、上京したてで不安いっぱいだった私たちを心配してか、自らの立場を超えて目をかけてくれたのです。
「〈ももち〉と〈チョコ〉は、絶対に会社を起こしたほうがいい! 絶対、後々に生きてくるから」
「絶対に」と言い切ったその言葉のおかげで、「忍ism(シノビズム)」という会社ができたも同然、というくらいその言葉は当時の私たちには強く感じられました。いつも背中を押して、見守って、困った時は助けてくれて、家族のような距離感で心配したり応援してくれるので、まるで兄のような存在です。
私は誰かと話をした後、「話し過ぎたかな?」「どう思われたかな?」と、とても気にするタイプだったりします。後悔なんてしょっちゅうです。でも家族なら、あまりそういうのを気にしなくてもいいじゃないですか。妹や弟だから許してくれるというか、分かってくれるというか、甘えられるというか……。さらに言えば、私は人に甘えるのも苦手で下手なんですけど(笑)。
でも、Kさんには家族と同じ空気を感じていて、だから素直に話すことができるんです。「素直に話すことができる」関係って素敵ですよね。本心を素直に話すというのはとても難しいです。言ったら仲が悪くなるかもしれないので、怖くて言えない「本心」も、言えたら言えた分その人との距離は縮めることができます。うまくいかなくて、困って、情けない姿をさらけ出してしまっても受け止めてくれる人。あまり直接会えなくても、とても支えてもらっていると感じる人。出会ったばかりの頃、中野の焼き肉屋さんで初めてご飯をご一緒させてもらった時のことが今も忘れられません。
他にも背中を押す言葉をくれる人がその時々にいて、将来的な不安からプロゲーマーを辞めようかと悩んでいた4年前は、「〈ももち〉と〈チョコ〉は僕の夢を歩いているようなもの。僕には妻子がいるし、年だから(プロゲーマーという)夢を追うなんてもうできない。プレッシャーに感じてほしくはないけど、まだ夢の続きを見させてもらいたいな」と応援してくれた人がいました。
名古屋にいた頃、毎日のように通ったゲームセンター「大須スカイ」の元店長も、当時から「最近どうだ? うまくいってるか?」と私のことをまるで自分の娘ように気にかけてくれていました。私が上京してからも、たまに名古屋に帰れば「おー帰ってきたかー! どうだ元気にしてるか?」と、まさにお父さんのようです。私にとって大須スカイは「帰って来られる場所」のような気がして、とても心の支えになりました。残念ながら2015年2月に閉店してしまいましたが、その店長さんは大須のクレープ屋さんに転職していて、今はそこが第二の故郷です。
ゲームセンターで知り合った年上の友人は、「この前テレビで二人を見たぞ! 頑張ってるんやなーと思うと俺まで嬉しいわ!」と、まるで自分のことのように私たちの活躍を喜んでくれるし、年下の友人には「憧れてるんですから、頑張ってくださいよ!」と思ってもみない言葉をもらったり……。
「プロゲーマーが何かよくわからないけど、ゆうこが頑張ってるものを応援したい!」って言ってくれる地元の友人や家族。私が人生で一番しんどかった、プロになる前の時期を支え続けてくれた夫の〈ももち〉。人としても経営者としてもまだ未熟な私に付いてきて、一緒に考えて、良くしようとしてくれる会社のスタッフたち。名古屋時代に趣味でやっていたバンドで一緒に演奏していたメンバーのみんなも、昔と変わらず私を応援してくれています。