プロゲーマーというと「頼れるのは自分のみ」みたいな、孤独な職業のようにも感じられるがそんなことはない。前回ご紹介したプロゲーミングチームのようなビジネス上の関わりや、他にも多くの支援者・応援者がいて初めて世界で活動できるのである。今回はプロになりたてで右も左も分からなかった〈チョコ〉こと百地裕子が、ひょんな縁で付き合いが始まり、のちに大切なアドバイザーとしてもお世話になる人たちとのエピソードについて語ってみた。
人付き合いは苦手だったけど
「これも何かの縁」ってよく言いますが、縁って本当に不思議ですよね。皆さんの周囲にも、とんでもない偶然が重なって知り合えた人っていませんか? その出会いがきっかけで、仕事の幅が広がったり、より多くの良い縁に巡り合わせてもらえたり……。
私は昔から人付き合いは苦手なタイプだったのですが、あまり深く考え過ぎずとにかく何事にも挑戦してみる、といった行動力だけはあったので、偶然すてきな人たちに巡り合えたことが何度かありました。そうして「何かの縁」で出会った人に支えてもらって、これまで頑張ってこられました。
相手と一対一で対戦する格闘系ゲーム中心のプロゲーマーを職業にしていますが、私って本当に一人じゃダメなんですよね。一人前には程遠い。最近はより一層、仕事の幅が広がっているので、随所でいろいろな人に出会います。その都度、自分の未熟さを痛感します。もっと成長したい。
自分で言うのも何ですが、基本的には真面目な性格なので、できるところまでは何とか自分で頑張ってみようと足掻(あが)くんですけど、どうしても「もう無理だー!」って瞬間がやってきます。仕事でも私生活でもです。子どもの頃もそんな感じだったので、たまに母に頼っていました。高校生の時に「夏休みの宿題がどう考えても終わりません……助けてください」と、母に泣き付いたのが懐かしいです。宿題で母に泣き付いたのは、その一度だけですけどね!
そんな私なので、今まで私を支えてくれた人たちがいたからこそ、今の私があると思っています。様々な人たちの支えがあったからこそ、プロゲーマーとしてやってこられたし、これからも頑張っていけます。今日はそんな「私を支えてくれた人」の存在について触れてみたいと思います。
まず一人目は、私の人生に圧倒的な影響を与え、支え続けてくれた人の話です。プロゲーマー仲間でもある夫の〈ももち〉や家族を除けば、一番私を支えてくれ、理解してくれている人だと思っています。
運命の出会いってあるものです
その人とは、私がまだ名古屋でプロゲーマーとして活動していた頃に知り合いました。2012年頃のことかな。当時の私は20代半ばで、アルバイトをしながらゲーム大会の運営をしたり、ゲーム番組に出演したりしていました。
名前は出せないので「Aさん」と呼ぶことにします。Aさんは東京で会社経営をする社長さんで、以前は大手企業でバリバリ活躍されていたとのこと。本来は絶対に知り合うことのない、住む世界が違う人でした。そんなAさんと私がどのようにして知り合ったかというと、それがもう本当に超偶然だったんです。
私が「家からとても近く時給がいい」というシンプルな理由で選んだアルバイト先の居酒屋に、起業意欲が非常に高い先輩アルバイターがいました。その先輩が東京で開催された異業種交流会的なものに参加したところ、Aさんがその場に居合わせたのです。AさんはAさんで、その交流会にはたまたま付き合いで参加したそうで、本来行く予定ではなかったとのこと。だがしかし! 偶然にも私のバイト先の先輩と、住む世界の違うはずだったAさんがその会で出会い、名刺を交換したのでした。
Aさん「今までは○○や△△で事業の立ち上げや広告関連の仕事に携わっていたのですが、最近はアニメ関連やサブカルチャーといった方面でもいろいろやっておりまして」
先輩「サブカル……それでしたら、僕のバイト先に面白い子がいますよ。何でも、日本女性初のプロゲーマーをやっているそうで」
Aさん「女性のプロゲーマーですか!? それはぜひお会いしてみたいですね」
先輩「おつなぎしますよ!!」
はい、このようにして急に私へとつながりました。たったこれだけ。これが「何かの縁」というやつですね。
そんなわけでバイト先の先輩のおかげで、偶然にもAさんと知り合うことができました。プロゲーマーが日本にまだ10人もいない頃です。当然、そういう存在は認知されておらず、バイト先で自分がプロゲーマーであることを話すにも勇気が必要でした。が、言っておいて本当に良かったと今でも思います。ありがとう先輩!
一人プレーでは渡れない世界
Aさんは本当に不思議な人です。こんな偶然で知り合ったにもかかわらず、自分の利益を度外視してまで、まさに「家族」のように親身になっていつも私を助けてくれました。
プロゲーマーとなり、仕事でゲームのイベントや番組に出演し始めた頃、私は本当に無知でした。例えば、個人や個人事業主が仕事のギャラ(この場合は出演料)を受け取る際、そこから所得税があらかじめ引かれる(正確には支払ってくれる会社が源泉徴収税として預かって税務署へ納めてくれる)ということさえ知りませんでした。初めて出演料が振り込まれた時は「あれ、提示されていた金額と違う?」と焦ったものです。名古屋で営業マンとして自動車会社に勤めていた頃は、全く気にかけない部分でしたからね。
また「飛ばし」はマナー違反、というのも知りませんでしたね。「飛ばし」とはどういうことかと言うと、私にゲーム関連の仕事を依頼してくれた人がいたとします。でもその仕事にはさらに依頼元がいて、そこからキャスティングを頼まれた人が私に声がけして仕事が成立したような場合、依頼元さんから「次は直接依頼しますよ」と言われても、それを受けてしまうとマナー違反になるのです。
契約書がない限り「絶対ダメ」とは言えないのですが、マナー上はNGなのです。私からその依頼元さんに直接、「お仕事を下さい」と営業するのもマナー違反です。最初に声がけした人が、「今後は依頼元とチョコさんとで直接やり取りしていいですよ」と承諾してくれない限り、このルールは続きます。
なぜこのようなマナーがあるのかというと、依頼元さんに頼まれてキャスティングした人の仕事を守るため。もちろんその人が悪い人だった場合、いいように利用されてしまう可能性も考えられます。なので仕事を受ける際には声がけしてくれた人の素性や、依頼元との関係にも注意しなければいけません。
プロゲーマーだからといって、ゲームの腕を磨いているだけでは通用しないことも、この社会にはたくさんあるのです。無知な新人が、一人きりで生き抜くのはハードルが高いです。かく言う私も何も知らずに大海原へ飛び出し、一つ一つ失敗を経験し学んでいったのですが、そういうことを教えてくれたり気づかせてくれたり、時には守ってくれたりしたのがAさんでした。
失敗というのはたくさんのことを学べますね! 黒歴史から学んだことは本当に多いです。できれば失敗する前に気づきたいものなのですけれど、私はとにかくやってみて、失敗して成長していくタイプのようです。 例えば、まだプロとして駆け出しの頃に、あまり気乗りしない仕事を受けてしまったことがあります。当日の朝まで悩んだ末、声がけしてくれた人に「どうしてもやりたくない」と伝えたのですが、「これはお仕事です。やってもらわないと困ります。先方(依頼元)が求めているのだから、今さら何を言っているんですか。精一杯、頑張ってください」と厳しい口調で突き返されました。