しかし結果だけが重要なわけではない。僕は君たちプレーヤーを何より大切に考えることを約束する」
ガーフィールドさんはプロゲーミングチームの先駆的なオーナーで、メディア企業やマーケティングベンチャーをも巻き込んで成功させた、eSportsのパイオニアと言われています。05年、「カウンターストライク」(Valve Software)と呼ばれるビデオゲームをプレーしていたカナダ人5人組のチームが、「トーナメントのため遠征したいがお金がない」と言ってきた時、母親から1000ドル借りて友人である彼らをトーナメントに参加させました。そして彼らのためにスポンサー探しを手伝い、実際に見つけてきたのです。
そのチームの名前こそ「Evil Geniuses」であり、のちに私たちが所属するプロゲーミングチーム「Evil Geniuses」の始まりでした。そんなオーナーがプロゲーマーになりたての私たちに残したこれらの言葉は今でも私たちの心に強く残り、私たちの基盤となり、私たちを成長させてくれています。
感激のあまり泣きそうになったこと
かくして、ドキドキ・ワクワク感でいっぱいだったEVO初参加を振り返り、初心に戻ったところで今年の試合に臨みました。
18年のEVOは、私にとって近年のEVOとは一味違いました。何が違ったかと言いますとね、いつもは試合会場では海外プレーヤーと夫の〈ももち〉が私の試合を背後から見守っているだけだったのですが、今年はそれに加えて心強い、熱のこもった応援があったのです。
一人は日本から現地観戦に来たという人で、なんとイミダスの私の連載記事のコピーを手に応援に駆けつけてくれました。私の「できないくせに完璧主義」について書いた、第10回「暴走型完璧主義ゲーマーの憂鬱」のエッセーに大変共感したとの感想を話してくださり、「応援しています!」と、試合中の私を見守ってくれました。同じく日本から観戦しに来たという別の人もわざわざ声を掛けてくださり、最後までずっと試合を見守ってくれていました。
さらにですね、アメリカ人の若い女の子が私に駆け寄ってきて目をウルウルさせ、緊張で声を震わせながらも興奮したテンションで「チョコ、あなたに会えて本当に嬉しい。本当に本当に嬉しい。大好き!」そう言ってくれたんですよね。彼女の名前はSabrinaちゃん。1時間半ほどの試合中、ずっと後ろで応援してくれて、私なんぞの戦いを何試合も嬉しそうに観戦していました。
敗退が決まった後は、私の気持ちの整理がついたのを見計らったかのようなタイミングで駆け寄ってきて「チョコ! 今、あなたのレプリカユニフォームを買ってきたの! あなたのブランカはとてもかっこよかった! 本当にありがとう!」
そう言って、手には「CHOCOBLANKA #1 FAN」と背中に書かれたユニフォームのレプリカとブランカの人形が……。もうね、信じられなかったですよ。私なんかのことをこんなにも慕ってくれる女の子がいるの!? もう私の方が感激のあまり泣きそうだったし、今思い出しても涙が出そうなくらい嬉しかった。
みんなを勇気付けたり、楽しませたりするのがプロゲーマーである私の仕事のはずなのに、私の方が勇気付けられちゃってる。彼女のために一つでも多く試合がしたい。彼女にもっと喜んでもらいたい。気付けば自然とそう思っていて、それが私の元気になりました。
We have chocoblanka!
既に十分ウルウルきていた私に、さらに活力をくれる出来事が続きました。この世界大会EVOの公式Twitterアカウントが「We have chocoblanka」という言葉と共に、Sabrinaちゃんと私の写真をツイートしてくれたのです。
直訳したところでは、「私たちのゲームコミュニティーには〈チョコブランカ〉がいる」と言ってくれているのかなと。私の勝手な解釈かもしれませんが、要するに私はアメリカの格闘ゲームコミュニティーに対し、何か役立つことができているのかなと。私がいる意味があるのかなと――。
〈チョコブランカ〉という存在は、〈チョコブランカ〉が誕生した時も今も格闘ゲームコミュニティーが作ってくれています。だからこそ私は、7年前にガーフィールドさんが教えてくれたように、「役割」を果たさなければならないのです。年を重ねて落ちていく体力とは裏腹にやるべきこと、やりたいことは増え、いろいろなことを両立させるのはとても大変だけれど、でももっと頑張れるはず。もっとやれるはず。Sabrinaちゃんの笑顔のために、応援してくれるみんなのために、もっと頑張らなければ。
今年のEVOは、活力をたくさんもらえたEVOでした。来年はどんなEVOになるのでしょう? 私はいつまでEVOに参加するのでしょう? それはわかりませんが、とにかく私は私の今やるべきことに集中して、私の役割を全うしようと思います。私の役割がなくなるその日まで!
それでは今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。