世界最大の格闘ゲーム(格ゲー)の祭典「EVO」のシーズンがやってきた! プロゲーマー〈チョコブランカ〉は今回も満を持して本大会に参加すべく、日本から約13時間かけて開催地であるアメリカのラスベガスを訪れた。今回は世界中の格ゲープレーヤーにとって、ある意味頂点となる大会ともされるEVOを通じて見たものや感じたこと、忘れられない貴重な思い出などを改めて紹介する。
もう8年もこの生活を続けているのか
いつも読んでいただきありがとうございます。イミダスで連載を始めて1年が経ちました。第1回の記事は「世界最大の格ゲー大会に行ってきた!」というタイトルで、世界最大の格闘ゲームのお祭り大会「Evolution Championship Series」通称「EVO」について書いたのですが、2018年も8月3~5日(現地時間)にアメリカのネバダ州ラスベガスで開催されたEVOに参加してきました。
EVOという大会は格闘ゲーマーにとってはとても大切な大会であり、最高のお祭りイベントなので、毎年夏になると「いよいよこの時期がやってきたか……」という気持ちになります。世界中から1万人を超える格闘ゲームファンたちが集まって、格闘ゲームに夢中になる最高の3日間なのです。
私が初めてEVOに参加したのは11年。EVOは年1回開催なので、今年で8回目の参加でした。8月1日に成田国際空港から出発し、予選が始まる2日前に現地入りしました。飛行機で約13時間の旅。途中、西海岸にあるポートランド国際空港で乗り換え、ラスベガスのマッカラン国際空港に到着した頃には結構な疲労感です。そして、いきなり襲いくる猛烈な暑さ。空気が乾燥しているので日本の猛暑よりはカラッとしていて、まだマシな気もしますが、やっぱり暑いものは暑いです。
大きなスーツケースを転がしながら、空港からバスで宿泊先でありEVO会場でもあるマンダレイ・ベイホテルへ移動。部屋に着いたらとにかく寝転びたかったので、ベッドにダイブしました。年をとるにつれ移動の疲労感が増している気がするなぁ……。枕に顔を埋めながら休んでいて、ふと「もう8年もこの生活を続けているのか」と思い、初めてEVOに参加した時の気持ちはどんなだったかなぁ? と振り返ってみることにしました。
今でこそ日本からも300人以上がEVOに参加するようになりましたが、私が初めて参加した11年頃は20人程度でした。当時は、大会全体の参加者数も3400人程度で今の約3分の1でした。しかしながら、3400人もの格闘ゲーマーが一堂に集って戦う大会なんて他にありませんでしたので、当時からEVOの存在は圧倒的なものでした。
初参加のEVOは浴衣スタイルで挑んだ
11年のEVOに参加する以前、他のアメリカ大会やシンガポール、オーストラリアで開催された大会には参加したことがあったのですが、ラスベガスを訪れたのは初めてでしたしカジノを見るのも初めて。どでかいホテルや街並みに「こ、これがラスベガスかぁぁ!」とテンションが上がっていた覚えがあります。きらびやかで、街を歩く人々も開放的で、“アメリカンドリーム”という言葉が似合う街だなぁと感じました。
実は10年にEVOが開催された時、自費で参加しようか迷ったんですよね。日程が重なったシンガポールの格闘ゲーム大会に招待されており、そちらを優先して結局EVOには行かなかったのですが、その年は「ストリートファイターⅣ」の女性部門が開催され、フランスの女性プロゲーマー〈Kayane〉が優勝しました。それを見て「次こそ私が絶対に優勝してやるぞ!」と燃えていたものの、11年は女性部門が廃止され男女混合トーナメントになったので、目標は達成できませんでした。そんな悔しさもありましたし、プロゲーマーになって初の海外大会だったので「何か爪痕を残さなきゃ!」と必死に考えました。
そこで思いついたのが祖母から母、そして私へと譲られた「浴衣」を着て、EVO会場で多くの海外プレーヤーと交流することでした。日本文化の正装という気持ちで着用したのですが、今から考えれば若さ故の勢いで安直なアイデアだったなぁとも思います。でも、結果たくさんの外国人参加者の注目を集めることができました。見ず知らずのプレーヤーからも「一緒に写真を撮ってくれ!」と声を掛けていただき、自己PRができたので成功だったのかもしれません。
とにかく私の名前を覚えてほしい、私という存在を知ってほしい――そんな気持ちでした。日本出発の前日に所属プロチームのロゴを印刷して、うちわの骨に貼り付けてせっせと形を整えて、プロチームうちわを自作したのが懐かしいです。私のことを既に知っているという人もいっぱい来てくれて、たくさんの人にサインや写真撮影を求められました。
こんなこと日本じゃありえない……ありがたいことだなぁと思いながら、一人ひとりと交流させていただきました。
チーム「Evil Geniuses」オーナーとの対面
本大会では、私と〈ももち〉が所属したてのプロゲーミングチーム「Evil Geniuses(イービル・ジーニアス)」のオーナーも会場に来ると聞いて、Facebookを通じて自分たちをプロの世界にスカウトしてくれたご本人に会うことができる! と嬉しくも緊張していた覚えがあります。オーナーの名前はAlexander Garfield(アレキサンダー・ガーフィールド)さん。超多忙と聞いていたのに時間を作っていただき、実際に会ってお話しすることができました。清潔感あふれる青年実業家といった感じの雰囲気を持っていて、とても気さくに私たちと話をしてくれました。笑顔がすてきで物腰が柔らかだけど、ゲームの話になるとキュッと顔が引き締まり、真剣な眼差しになる――そんな人でした。
私には、オーナーに会ったら絶対に直接聞きたいと思っていたことがあったので、その質問をぶつけてみました。実は契約の話の中でも確認したことなのですが、その時はマネージャーが相手だったのでオーナーに直接聞きたかったのです。
「私はプレーヤーとして強くはないです。女性の中では強いかもしれませんが、男性プレーヤーに比べると全然強くないです。(11年のEVOでは)女性部門もなくなりましたし、それでも本当に私をプロゲーマーとして雇う意味があるんですか? 私はチームに所属していていいのですか?」
プロといえば、観客をアッと言わせるぐらい凄いプレーで魅了するような超強いプレーヤーがなるものと思っていたので、なぜ私に声を掛けたのか疑問で仕方なかったのです。皆さんもそう思いますよね。オーナーは私のレベルを勘違いしているのではないかと、そう思えてならなかったのです。ですがオーナーの言葉はこうでした。
「それは知っているよ。それを承知の上で、僕は君に声を掛けた。君にしかできないことがあるから、オファーしたんだよ。君には重要な役割がある。だからチームに君が必要なんだ。自信を持ってほしい」
「勘違いしてたわ、やっぱクビね!」と言われなくて安心しました。でも、必要としてもらえるのは嬉しいという気持ちと同時に、「私にしかできないことって一体何だ?」という疑問で頭がいっぱいになりました。
「私にしかできないこと……?」と聞き返してみましたが、オーナーは「それは自分で考えることが大事だよ」と言わんばかりの笑顔で、ただ一言「期待しているよ」と添えました。それが私の人生を大きく好転させてくれた人との出会いであり、今日までずっと続く疑問との出会いでした。
ちなみに一緒に所属した夫の〈ももち〉には、こんな言葉を残しました。
「試合の結果は大事だ。