朝夕めっきりと涼しくなってきました。紅葉はピークで、毎日のように枯れ葉がパラパラと音を立てて散ってゆきます。「光の田園」の田んぼも田起こしがあちこちで行われています。撹拌(かくはん)され畝(うね)がつくられた田んぼの土の色ときつね色の土手の対比がとてもきれいです。
落葉が始まると、私はいつも雑木林を訪れます。アトリエやその周辺にも雑木林はあるのですが、琵琶湖の北部にある「萌木(もえぎ)の国」はやはり格別で、わざわざそこまで足を伸ばすことも多いのです。「萌木の国」については、以前にもお話をしたと思いますが、30年以上前に開発される予定だった土地の一角を買い取って保護し、管理している、いわば「個人トラスト活動」をした場所です。「やまおやじ」と名付けたクヌギの古木がいっぱいあって撮影にもよく使っていました。
ここで見慣れない木を見つけました。クヌギに交じって生えていて、姿は一見するとカシワのようですが、葉をよく見るとミズナラのように縁がギザギザになっています。幹はやや白っぽく、表皮が部分的にめくれ上がってカサカサした感じがします。のちにこの木は、「ナラガシワ」という種類だということを知りました。ナラガシワはやや湿った土壌で水はけの良い場所を好むらしく、河川敷としての性質をもつ萌木の国界隈の土地で生き生きと育っていました。
ナラガシワのドングリは、いかにもドングリらしい良い形をしています。コナラのドングリに似ているものの、二回り以上大型。11月、葉が落ち始めた頃のナラガシワの古木の下を散策しながらドングリを拾い集めるのは何とも楽しい時間です。
でも、ナラガシワはクヌギやコナラのようにどこでも見られる木ではありません。比良山地(ひらさんち)の裾野に点在していますが、かなり局所的です。これは私の想像ですが、はるか昔に、朝鮮半島から人為的にもたらされたものなのかもしれません。萌木の国のナラガシワも特定の場所にしか生えてないので、雑木林をつくるために人が植えて育ててきた木であることは確かです。
こんな不思議な生え方をしているナラガシワの葉を食べている珍しい蝶がいます。それは、ゼフィルスの仲間であるウラジロミドリシジミです。この蝶の幼虫は、西日本ではナラガシワの葉しか食べないので、限られたところでしか見つかりません。大変うれしいことに、萌木の国では毎年姿を見せてくれます。この蝶の特徴は、名前の通り“翅(はね)の裏が白い”ミドリシジミだということ。ただ残念なのは、成虫に出合えるのは6月の梅雨の時期で、私たちが真夏に開催している「今森光彦 里山昆虫教室」では観察することができません。参加者には毎回、図鑑を見せて説明するだけなのでいつも歯がゆく感じています。
ともあれ、ナラガシワの大きな落ち葉を踏みしめながら雑木林を散策する季節が今年もやってきました。
「光の田園」
アトリエのある滋賀県大津市仰木地区の谷津田の愛称。美しい棚田が広がる。
ゼフィルス
シジミチョウ科のミドリシジミ類の俗称。