雑木林の葉がすっかり落ちて冬景色。近年は、温暖化のせいでしょうか、12月に入ってからも梢に紅葉が残るようになり、季節が少しずれているように思います。冬の到来が遅れている分、慌ただしく年の暮れがやってきます。
刈田の風景の中で、ここ数年目立つようになったのは、獣害対策に使われる電気の柵です。田んぼを囲うように杭が林立し、細い電線がつながっています。これらはイノシシの侵入を防ぐためのものです。電気柵のあとには、大人の背丈よりも高い、フェンスのような柵が登場しました。こちらには電気は通っていませんが、頑丈な金属の格子で、シカ対策のものです。シカは高い囲いでないと軽々とジャンプしてしまうので、2メートルほどの高さが必要なのです。
シカ対策の柵が四角い田んぼを囲っていると、まるでテニスコートのようです。また、狭い畑の中で作業している人がいると、人間の方が檻の中の家畜のように見えてくるから何とも皮肉なことです。
イノシシは米や農作物を全部食べてしまうので警戒されます。シカはサツマイモやジャガイモのような作物を掘って食べることはないのですが、地上に出ている葉物を平らげてしまいます。特に、果樹の若葉や植林したばかりの樹木の新芽などが大好物なので、農家の人には嫌がられます。昔は、神様に仕える聖獣として扱われていたシカが、こんなにも人に嫌われてしまうなんて、ちょっと残念です。
私が里山でフィールドワークをするようになった40年ほど前は、滋賀県大津市界隈での獣害はほとんどありませんでした。それよりも更に数十年前から、薪や炭などを採っていた雑木林が放置され、スギやヒノキを主体とする林業が衰退していたので、私がフィールドに通うようになった頃は、里山のエコシステムが限界を迎えていて、最後のチャンスだったのかもしれません。
山が荒れて実のなる木々が少なくなり、手の届く範囲に若葉が得られなくなったシカやイノシシたちは、やむなく人の生活圏にやってきたのだと思われます。現在の獣害は、元はと言えば人間が引き起こした「災害」だと言えそうです。
私のアトリエの庭には電気の柵はないのでシカやイノシシたちはウェルカム。ほぼ毎日訪れている様子です。もっとも、今まで彼らとの闘いがなかったかと言えばうそになります。収穫前のサツマイモを食べられたり、ミソハギの若葉をかじられたり、大切な桑の木の幹にシカが角をこすりつけて樹皮をはがすことが病気を引き起こしたり、例を挙げるときりがありません。
でも今は、それらの苦難を乗り越えてシカやイノシシとの共存を考えるようになりました。以前はめったに出会えなかった動物が、私の庭にわざわざやってくるのだと思うとうれしくなります。
*写真の複写・転載を禁じます。