今年も木々の葉の緑が美しい季節がやってきました。アトリエの雑木林に彩りを添えるツツジは、早春のミツバツツジから始まって、ヤマツツジ、モチツツジへと移り変わります。それに伴って、林内に漂う匂いも変化するのですが、これはうまく言い表すことができません。
こんな頃、小鳥たちのさえずりがピークになります。シジュウカラやイカル、そして、キビタキも鳴き始めます。イカルとキビタキは、里山で一番の美声の持ち主ではないでしょうか。リズミカルな歌声を聞いているだけで風景が明るく感じられ、すがすがしい気持ちになります。
キビタキやイカルを見かけると、いつも子どもの頃を思い出します。私が小学生の頃は、まだ、野鳥を飼っても良い時代でした。野生の小鳥を捕獲して飼いならし、姿や鳴き声を楽しむことがよくあったのです。捕獲にはカスミ網や鳥もちを使うのですが、金魚や飼い鳥などを売っている店でそれらを買い求めることができました。
私の通学途中にある、とある家の庭には、風呂敷がかけられた箱のようなものがいっぱい並んでいました。「一体何だろう」と思いながら、毎日何気なく行き来していたのですが、ある日の朝、その庭の前を通ると、ピーッという甲高い声が聞こえたのです。それは聞いたことのない鳥の声で、風呂敷がかけられた箱の中から聞こえたようでした。
私は前かがみになりながらそっと近づき、ゆっくりと風呂敷を持ち上げて中をのぞき込みました。中にあったのは細い竹で作られた鳥籠で、そこには見たこともないきれいな鳥がいたのです。「いた」と言うより、踊っていたと言った方が良いかもしれません。その鳥は竹籠の中の止まり木に止まったかと思えば、籠の側面にピョンと乗り移り、また止まり木に一瞬止まって、今度は反対側の側面に乗り移る、という動作を繰り返していました。鳥が方向転換する時、首を180度反らすのですが、まるで水泳選手のターンを見ているようです。なんという柔軟な体でしょう。
そして、私の胸を躍らせたのは、その鳥が目のさめるような色彩をしていたからです。真っ黒な地に山吹色の斑紋で橙色も見えます。後になって、それがキビタキという鳥で、その庭のある家のおじいさんが飼っていることを知りました。
それから、半年も経たないうちに、私はそのおじいさんと仲良くなり、生きものが大好きだったので、いろいろと教わるようになりました。おじいさんと小鳥を捕獲しにいったこともあります。冬になると、ブッシュの中を渡り飛ぶメジロを観察しました。飛ぶコースを熟知してカスミ網をかけるのです。カスミ網は現在では使用が禁止されており、今から思えばほんとうにかわいそうなことをしたものですが、手の中に収まった小さな鳥の温もりや羽毛の感触は忘れられません。
そんな里山のスターたちが、アトリエの雑木林にやってきてくれるのをとてもうれしく思います。
*写真の複写・転載を禁じます。