今年も、湿度の高い季節がやってきました。庭で仕事をしていても、ちょっと頑張ってやりすぎると汗が出てきます。農家の人たちにとっては、「雑草」と言われるさまざまな植物たちがこの時に勢力を拡大するので、まさに格闘の始まりでもあります。
そんな頃、雑木林の木々の葉の色は深さを増し、濃緑色へと移り変わり、森の中は次第に暗くなってゆきます。実はこの暗がりを待っている昆虫がいます。その代表はジャノメチョウの仲間です。アトリエの庭の雑木林では今のところ8種類のジャノメチョウの仲間を確認していますが、みんなそれぞれに個性的です。今回はその中からサトキマダラヒカゲ、クロヒカゲ、ヒカゲチョウを紹介します。
この中で、雑木林がほの暗くなる5月からかなり暗くなる6月にかけての端境を謳歌(おうか)しているのは、なんといってもサトキマダラヒカゲです。サトキマダラヒカゲは、木々の葉が広がり始めた頃に出現します。この頃はまだ雑木林の中にも太陽の光が当たるので全体に明るい感じですが、日陰がない所を元気良く飛び回っています。
ジャノメチョウの仲間は、翅(はね)に蛇の目文様を持っているのが特徴ですが、サトキマダラヒカゲは蛇の目文様の他に黄土色の斑紋を持っているため、どことなく、翅にヒョウのような模様があるヒョウモンチョウの仲間に似ていて、日なたを飛んでいると一瞬、見間違えることもあります。ただし、日陰を好むジャノメチョウのプライドに懸けて守備範囲を守っているようで、雑木林から畑の真ん中に出てくることは決してありません。
やがて、木々の葉が広がって雑木林の中に初夏の香りがしてくると、森の妖精のように暗がりを飛び交います。木陰ができてくると、夏に先駆けてクヌギやコナラの幹から樹液が染み出ている時があり、サトキマダラヒカゲはそこに集まってきます。樹液を奪い合うライバルのオオスズメバチは、この時期はまだ女王バチが巣をつくる前なのでおとなしく、競争相手がいない樹液のレストランはサトキマダラヒカゲの天下となります。
6月中旬以降になると、さらにクロヒカゲやヒカゲチョウが顔をそろえ、雑木林の中はにぎやかになります。ジャノメチョウの仲間は翅の地色が茶色や茶褐色をしていて地味ですが、どれも蛇の目文様がとても美しくて私は大好きです。
アトリエの庭をつくる時、ジャノメチョウの仲間が暮らしやすくなるようにいろいろと考えました。彼らの幼虫が食べる餌はイネ科植物で、特にサトキマダラヒカゲ、クロヒカゲ、ヒカゲチョウは、この辺りで見られるアズマネザサを食べています。アズマネザサは竹と同様に里山を放置するといち早くはびこってしまう植物です。なので、里山を整備する時にはこの植物を刈り取ってしまわないといけないのですが、やりすぎるとジャノメチョウたちの食べ物がなくなってしまうことになります。
つまり、アズマネザサをほどほどに残してやらなければならず、私がいつも気にかけているチョウたちなのです。
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