琵琶湖のほとりにも本格的な冬がやって来ました。今年は雪が多い年らしく、晴れた日は対岸の鈴鹿山脈の峰が銀色に輝いているのが見えます。ここ数年は温暖化のせいか積雪が少なかったので、この冬は一昔前のような季節感のある風景に出会えるのが楽しみです。
以前、アトリエの近くにため池を再現した話をしましたが(第8〜10回)、ため池はアトリエのある仰木(おおぎ)界隈ではこの30数年で激減した環境で、特に小さなため池は姿を消しました。その小さなため池の周辺には浅い水辺があって、生きものの視点で考えると最重要な場所でしたが、現在ではほとんど残っていません。人知れずなくなってしまいました。
私が一番再現したかったのは、「ため池」というよりは「湿地」と言ったほうがよいくらいの浅い水たまりです。昔よく見かけた湿地は、周囲に植物が茂っていて輪郭が定かではなく、陸地からしだいに水辺に誘われる感覚の場所でした。そこには湿地性の植物が生えるのですがその代表がカサスゲで、ススキのような柔らかい葉を伸ばします。背丈は高くなると大人の腰くらいになりますが、草刈りの管理をしていると膝くらいにとどまります。
昔の人は刈り取ったカサスゲの葉を乾かして菅笠(すげがさ)に利用したことから、この名前があります。人との関わりがあった植物ですからどこにでも生えていて、農家の人たちに愛されてきたのでしょう。
カサスゲが優れている点は、繁殖力が旺盛で地下で根を張って湿地のまわりを頑丈にしてくれることです。だから、私は湿地をつくる時には積極的にカサスゲを利用しました。私が「オーレリアンの丘」と名づけた現在進行形で環境づくりをしている農地や、里山再生を目指している「めいすいの里山」に設けた湿地でもカサスゲが活躍しています。アトリエの湿地に生えているカサスゲを根ごとブロック状に切り出して、それを湿地の周辺にスポット的に植え付けると、なんと翌夏には周辺が緑に覆われるくらいに茂ってくれます。
カサスゲは水辺の移行帯をカバーする植物なので、そこを利用する水生昆虫たちにはたいへん貴重な存在です。トンボたちにとっては産卵の場所にもなりますし、ヤゴが羽化する足場としても欠かせません。背丈があまり高くない植物が茂る湿地には、さまざまな水生昆虫が集まってきます。コオイムシやミズカマキリなどの翅(はね)をもっている水生昆虫は、どこからともなくやってきて居着いてくれます。
枯れ色の湿地の中、水生昆虫たちは果たしてどのように越冬しているのでしょうか。
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めいすいの里山
生きものが集まる環境を取り戻すために、2017年から里山再生プロジェクトを行っている仰木地区にある谷津田
移行帯
性質の異なる水中と陸の環境をゆるやかにつなぐ水際