野山が色づく季節がやって来ました。遠くに見える比良山系(ひらさんけい)の頂(いただき)付近は、落葉して灰色になっていて、いよいよ紅葉が里に降りてきたという気持ちになります。
木々の葉が色づきのピークに達すると、鮮やかさを増す実が目立ち始めます。秋に実がなる植物はたくさんありますが、その中でも、サルトリイバラは最も存在感のある実を付けるので私は大好きです。
サルトリイバラは雑木林の林縁部などに自生する里山のつる植物です。低地から山地まで、それこそブッシュ(藪)や林があればどこででも見られます。私のアトリエの敷地内にもたくさん生えていますが、秋に実がなってくれるようにするには少し工夫が必要です。サルトリイバラは春に前年の茎から新芽が伸び、それが他の植物に絡まりながら成長していくのですが、夏場につるを刈ってしまうと実がなりにくくなるため注意しなければなりません。私の場合は、冬以外の季節は剪定をしない場所を決めていて、そのエリアに生えるサルトリイバラを大きくするようにしています。つまり、ちょっとしたブッシュを意識的につくっているということです。そこのサルトリイバラは夏までに3〜4メートルの高さになり、晩秋になると赤い実をいっぱい付けてくれます。
年によって異なりますが、実がたくさんなる年はつるを切ってくるくると輪をつくるとそのままリースになるほど豪華です。晩秋のサルトリイバラは、水が無くてもしおれずに日持ちするので、いろいろな飾りに使えます。枯れた葉を取り除き、つると実だけにして玄関のライトに這わせることもありますし、水を入れない花瓶に生けることもあります。また、実だけをとって小皿に入れておいても愛らしいデコレーションになります。とにかく紅色が長持ちするので、冬になってもそのまま楽しめるのがありがたいです。
ところで、この植物を大切にしている理由がもうひとつあります。それはサルトリイバラの葉が「ルリタテハ」という蝶の幼虫の食べ物になっているということです。ルリタテハは、黒みがかった紺色の地に、ややくすんだ日本画の顔料のような青色の帯模様をもった美しい蝶です。冬に成虫で越冬するキタテハ、アカタテハ、ヒオドシチョウと並んで、里山を代表するタテハチョウだと言ってよいでしょう。
ルリタテハの幼虫は、サルトリイバラの葉の裏でアルファベットのC字スタイルで休んでいます。幼虫の体には鋭い棘(とげ)があり怖そうに見えますが、この棘に毒はありません。幼虫をそっと手に乗せるとほんのりチクリとしますが、まったく安全です。きっと棘は鳥に対しては威嚇になるのでしょう。
さて、今年もサルトリイバラの赤い実は見られるでしょうか。アトリエだけでなく、オーレリアンの丘も散策したいと思っています。
オーレリアンの丘
仰木地区の「光の田園」をのぞむ小高い場所にある農地。生物多様性を高めるための農地を目指して環境づくりを行っている。