新型コロナウイルスに罹患後、精子の運動性が悪くなったり、精子の数が減少したりするという報告も出ていますが、精子がすべて新しい精子に入れ替わる1サイクル(約3カ月)を過ぎると回復することが多いようです。インフルエンザでも同様の現象が見られますので、この研究結果は納得できる気がします。そもそも、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザにかかると精子の状態が悪くなるというのは、ウイルスそのものが影響しているというより、高熱による精巣へのダメージが大きいのではないかと考えられます。
Q5.女性は将来の不妊に備えて卵子の凍結ができるそうですが、男性も若いうちに精子を凍結しておいたほうがいいですか。
病気ではなくても将来に備えて卵子や精子を凍結しておくことを「社会的卵子凍結」「社会的精子凍結」と言います。社会的卵子凍結は、妊娠・出産の確率を上げる効果が「ある」というエビデンスがあるのですが、社会的精子凍結は逆に、効果が大して「ない」、というエビデンスがあります。精子を凍結・融解するデメリットとして、精子の細胞壁が損傷し、運動性も約50%低下すると言われ、人工授精での妊娠が難しくなるということがわかっています。一般的には、体外受精をすれば男性は何歳になっても子どもを持つことができると言われていますので、社会的精子凍結は精子凍結・融解のデメリットを上回るメリットがなく、やる意味がないと言えるでしょう。
一方、生殖機能に影響を与える精巣がん等の患者に対する「医学的精子凍結」は、抗がん剤治療や放射線治療が造精機能を低下させる可能性があるため、とにかく精子を確保しておくという意味で、治療前に精子を凍結保存しておくというのは有効な選択肢となります。ただし、まだ射精ができない思春期以前の小児は、精子凍結を行うことができません。精巣組織を凍結して保存するという手段もないわけではありませんが、手術の事例も限られていますし、さらに精巣組織凍結が妊孕力を保証するという根拠はありません。小児がんの場合は、とにかくがんの治療が最優先ということになるでしょう。