被害者だけでなく加害者も低年齢化
――2025年には、複数の教師が生徒の盗撮画像をSNSのグループチャットで共有していたというショッキングな事件がありましたが、生徒同士の盗撮や性的画像拡散、性的いじめ等の報道も目にします。デジタル性暴力では加害者の低年齢化も進んでいるのでしょうか。
そうですね。背景の一つには、今の子どもたちが幼い頃からデジタルツールに馴染んでいることがあると思います。彼らにとって、スマホで写真を撮ることはもちろん、それをアプリで加工してシェアするのは、ごく普通のことです。しかし、相手の同意を得ていない撮影は盗撮という犯罪行為とみなされる場合があります。やっている当人はそうとは意識せず、仲間内のノリや遊び感覚なのかもしれません。また、違法な性的コンテンツのシェアやダウンロードなどもデジタルツールで手軽にできてしまうため、軽い気持ちで手を出してしまうといったことはあると思います。
セクスティングについても、「なぜそんなことをしてしまうのか」と思う人もいるかもしれませんが、若い世代の間では親密な関係性でのやり取りであることも少なくありません。性差にかかわらず性的好奇心が強い年代ということもあり、自撮りした性的画像を送り合うことに抵抗を持たない子も一定数います。これはアメリカのデータですが、THORNというアメリカのNGOによる2022年の調査では、13〜17歳の約3割が「性的な画像を送り合うのは普通」と答えています。セクスティングの相手は知り合いが約半数で、実際に会ったことがない人へのセクスティングも増加傾向にあります。日本の子どもたちも友人や交際相手と自分の情報をなんでもシェアするということが当たり前になっているので、セクスティングも親密さを表現する一つの手段と捉えられているかもしれません。シェアした相手と関係が悪化したり疎遠になったりしたとき、相手が持っている自分の性的画像や動画がどう使われるかということまでは考えないのでしょう。
――子どもたちが気軽に性加害行為をしてしまうことには、子どものうちからネットで性的な情報に晒されることも影響しているのでしょうか。
子どもによる性加害にはグラデーションがあり、特に低年齢では「遊び」の延長的なものから明らかに悪意を感じさせるものまでさまざまです。後者に関しては、「なぜ、この年齢でこういう性加害のやり方を知っているのだろうか」と考えさせられることもあります。これは現場の感覚にはなりますが、加害のやり方から「ネットで過激な性的動画等に触れているのでは」と想像される事例にも遭遇します。あるいは、子ども自身が性的虐待を受けていて、自分がされたのと同じことをしているのかもしれません。今後の調査や研究が待たれますが、デジタルな性的情報がリアルな世界に影響を与えている可能性はゼロではないと思います。
日常が恐怖と不安に満ちたものに
――盗撮や性的画像の拡散、性的ディープフェイクなどでは、「撮られた本人が気づいていないから」「実際に身体が傷つけられたわけではない」等の理由で被害が軽く見られ、性加害が起こりやすくなるということはあるでしょうか。
アメリカ精神医学会(APA)によるPTSDの解説によれば、性暴力のトラウマ体験にはレイプなど身体接触を伴う望まない性的体験の他に、同意がないのに性的写真や動画を撮られたり、それらが流出したりすることも含まれます。PTSDはPost-Traumatic Stress Disorderの略ですが、盗撮や性的ディープフェイクによる被害には、いつまでも「ポスト(事後)」にならないという、極めて深刻な問題があるのです。
おそらく加害者には「身体的な加害でないのだから、たいしたことではない」という感覚があるのでしょう。しかし、デジタル性暴力がリアルな性暴力より影響が軽いということは決してありません。自分の性的な写真や動画がいつどのような形で表に出るかわかりませんし、「消去する」と言われてもどこかに残っているのではないかという、強い不安はいつまでも拭えません。
例えば盗撮では、撮られた側が気づいていなくても、顔が写っていなくても、その画像が表に出たとき、持ち物や服、背景などから被害者が特定される可能性もあります。逮捕された加害者の所持データに写っていたということで、警察から連絡が来ることもあるでしょう。ある日突然、自分が盗撮されていたと知った被害者は、電車の中、学校、ショッピングや食事をする店など、それまで安心して過ごせていた場所が安全とは思えなくなってしまいます。日常生活が「盗撮されるかもしれない」という不安や恐怖に満ちたものになり、その感覚は一生、消えないかもしれません。
―― 一度流出した性的画像を完全に削除することは難しいのでしょうか。
まず、18歳未満のときに撮影された性的な画像や動画については、「Take It Down」というプラットフォームを通じて削除する仕組みがあります。これは、「全米行方不明・被搾取児童センター(National Center for Missing & Exploited Children:NCMEC)」がMeta社の協力を得て運営しているもので、日本語対応もしています。また、18歳以上の同意のない性的画像・動画を対象としたものでは、イギリスの民間団体がMeta社と開発した「StopNCII」(NCIIはNon-Consensual Intimate Image Abuseの略)という同様のプラットフォームがあり、いずれも無料です。これらを使うことで、Meta社のInstagram、Facebookの他、さまざまなオンラインプラットフォームに存在する画像や動画を削除できる可能性があります。
ただし、「Take It Down」ではXが含まれておらず、LINEは「StopNCII」でも対象外です。また、ダークウェブと呼ばれる、専用のツールやブラウザーを通してやり取りが行われる匿名性が高いウェブサイトにデータが流出すると、削除することも困難です。ネット上から画像・動画を完全に削除することには限界があると言えるでしょう。
CSAM
シーサム。Child Sexual Abuse Materialの略。子どもを性的に扱う画像、動画、音声などのコンテンツの総称。「児童ポルノ」といわれることも多いが、「ポルノ」は出演者の同意を前提とする性的産業の商品であり、そもそも同意ができない年齢の児童の性的コンテンツを示す言葉としてはふさわしくないとされ、近年はCSAMへの言い換えが提唱されている。なお、日本では、アニメやCG等のCSAMは「表現の自由」との兼ね合いから規制されていない。