(前編からの続き)
現在、デジタル性暴力の対策や予防はどこまで進んでいるのだろうか。被害者・加害者の低年齢化が進む中、子どもや若い世代に向けた教育や、法令・支援体制の整備が急がれる。急スピードで拡大する現実に対し、日本で行われている対策の現状や課題について、櫻井鼓(つつみ)・追手門学院大学教授にうかがった。

櫻井鼓・追手門学院大学教授
事業者や学校の取り組みはどこまで進んでいるか
――デジタル性暴力に対して、現在、日本ではどのような対策が取られているのでしょうか。
前編でもお話ししたように、オンラインに接続していれば誰でもデジタル性暴力のリスクがありますが、今の時代、ネットに一切つながらない、SNSを使わないというのは現実的ではなく、デジタル性暴力を完全に防ぐことは難しい面もあります。とはいえ、特に心身の発達途上にある未成年をデジタル性被害から守る取り組みはさまざまな形で行われています。何かひとつこれをやれば問題が解決するというものではなく、インターネット事業者、学校、家庭など立場によってできることは違ってきますし、それぞれが具体的に取り組んでいく必要があると言えるでしょう。
まず、事業者による取り組みとしては、例えば、アプリ等を使用するときの年齢認証を厳密に行い、成人向けコンテンツ等に触れられないようにするということが挙げられます。YouTubeは、アカウント作成の際の自己申告に加え、独自の年齢推定モデルによりユーザーが18歳未満かどうかを判断し、年齢制限が設けられている動画を視聴できないようにしています。
また、Google社はCSAM(子どもの性的虐待コンテンツ)の流通を防止するアルゴリズムを使用し、検索リストからの削除や該当するコンテンツが表示されないよう、取り組みを進めています。日本オンラインゲーム協会も「オンラインゲーム安心安全宣言」として、「ゲーム内に、青少年に望ましくない表現を含む場合、その旨をあらかじめ表示」「青少年の健全な育成を阻害するおそれのある不適切な広告の掲載が行われないよう、適切な管理・運用に努める」としています。広告も含めた性的コンテンツへの意図しない接触については、どこまでが「性的なのか」という線引きの問題もありますが、子どものアクセスを制限する等、事業者の対策が待たれます。
――性的なものを含む有害サイトへのアクセスを制限する「フィルタリング」など、保護者が未成年のネット利用を制限できる「ペアレンタルコントロール」機能を使えば、被害を防げるでしょうか。
フィルタリングとペアレンタルコントロールは非常に重要で、少なくとも子どもの性被害を防ぐ入り口にはなると思います。ちなみに、青少年インターネット環境整備法に基づき、子どもの携帯電話契約の際、事業者は契約者となる保護者に対し、性的なものを含む有害サイトへのアクセスを制限するフィルタリングサービスについて説明し、フィルタリングソフトやペアレンタルコントロール機能の初期設定を行うことが義務付けられています。
ただ、これは同法が2017年に改正された以降のことで、実際には子どものスマホにフィルタリング機能を入れていない家庭も少なくないようです。2024年に行われた東京都の調査では、ペアレンタルコントロールという言葉を「知らない」が54.7%、30.8%がぺアレンタルコントロールに「関心がない」と回答しています。2018年の警察庁の調査では、SNSを通じて被害に遭った子どもの約9割がフィルタリングを利用しておらず、もしフィルタリング機能を使っていれば被害を防げた可能性があることを考えると、まずはフィルタリングを活用することが第一歩になるかと思います。
――デジタル性暴力の加害や被害を防ぐために、学校ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
現在、2019年から国が始めた「GIGAスクール構想」の下、全国の学校で小学校1年生からパソコンやタブレット端末が使えるようになっており、ネットの使い方などはある程度、授業で教えられていると思います。ただ、デジタル性暴力の問題が言われるようになったのは近年で、教育現場での対策はこれからますます重要になると思います。一方、ネットについては子どもの方が大人より詳しいですから、先生が一方的に教えるスタイルでは限界があり、先生が子どもから教わったり、子どもと一緒に調べたりなど、先生の側も学ぶ姿勢が必要になってくるでしょう。
デジタル性暴力のことを子どもたちに伝えるときの前提として、大人の側が気をつけなければならないのは、単に「性的画像や動画を送ってはダメ」「盗撮してはいけない」「安易にプロフィールをネットに流すのはリスクがある」と言うだけでは被害・加害を防ぎきれないということです。性的に受け入れられることが愛情だと捉える子も一定数いますし、嫌だと思っても関係性を失うことを恐れて拒否できない場合もあります。より過激な性的画像・映像を提供することで、承認欲求を満たそうとする子どももいます。そのような子どもたちと教育的に関わるうえで、同意とは何か、人間関係を育むとはどういうことかという学びも得られる包括的性教育は非常に重要だと思います。
また、SNSを通じて性被害を受ける子どもたちの中には、虐待等、何らかの事情でトラウマを抱えているケースもあり、その影響で、どのようなことが暴力なのか、何をされれば被害になるのかといった感覚が希薄になっていることも多いです。彼らがデジタル性暴力のリスクを理解し、行動を変えていくためには、そうした子どもたちの状況を大人がどう手当てしていくかという視点も欠かせません。
CSAM
シーサム。Child Sexual Abuse Materialの略。子どもを性的に扱う画像、動画、音声などのコンテンツの総称。「児童ポルノ」といわれることも多いが、「ポルノ」は出演者の同意を前提とする性的産業の商品であり、そもそも同意ができない年齢の児童の性的コンテンツを示す言葉としてはふさわしくないとされ、近年はCSAMへの言い換えが提唱されている。なお、日本では、アニメやCG等のCSAMは「表現の自由」との兼ね合いから規制されていない。