デジタル性暴力に適用される法令とSNS規制
――デジタル性暴力を取り締まる際に、日本ではどのような法令が適用されるのでしょうか。
デジタル性暴力に関連する法令にはさまざまなものがあります。下の表にあるのはその一例ですが、どの法令をどう適用するかはケースバイケースで、捜査機関の判断となり、一概には言えません。

――デジタル性暴力をはじめとするさまざまなリスクが増大していることから、海外では子どものSNS利用を制限する動きが相次いでいます。日本でも実施されるべきでしょうか。
現在、総務省やこども家庭庁の有識者会議で青少年のSNS利用について議論されています。海外ではオーストラリアが2025年に「16歳未満のSNS利用は原則禁止」としたのを皮切りに、ヨーロッパを中心に同様の規制の実施や検討が相次いでいます。いずれも、違反した場合の罰則は子どもやその保護者ではなく、事業者であるプラットフォーム側に科されます。
判断が難しいのは、SNSは子どもにとってメリットもあるということです。長時間利用でスマホ依存になると言われますが、今のところ、「ゲーム障害」のような病名はまだありません。SNSも含めたネットの使用とメンタルヘルスの問題に相関関係があることはわかっているのですが、因果関係となるとまだはっきりしないのです。また、画像やテキストベースなど、ネットのどの要素がメンタルヘルスを悪化させるのかも、明らかになっていません。長時間利用と一口に言っても、調べ物や学習で使っていることもあり、SNSが人間関係などで悩んでいる子どもたちにとっての居場所になっているケースも想定されます。また、SNSは電話が苦手な若者でもアクセスしやすい相談ツールとしても使われています。SNSにはさまざまなリスクがあることは踏まえつつ、単に「使えないようにすればいい」というだけで解決できない部分もあると言えるでしょう。
被害に遭ったときに何ができるか
――例えば子どもがセクスティングをさせられていたとわかったとき、親は「なぜそんな写真を送ってしまったのか」などとつい叱ってしまいそうです。そのような場面で親が気を付けるべきことはなんでしょうか。
動揺してしまうのはわかりますが、そこはグッとこらえてほしいです。性に関することには「恥ずかしい」という感覚がついてまわり、さらに「言ったら怒られるのではないか」という子どもの強い不安が、親に被害を打ち明けるハードルになっています。子どもにとって、親に相談するのはとても勇気がいることで、そこで怒ってしまったら、たとえ複数の性被害を抱えていたとしても、子どもは口を閉ざしてしまうでしょう。まずは、「よく話してくれたね」と、子どもの気持ちを受け止めることが大事です。「どうして」と問い詰めたくなるかもしれませんが、二次的被害を与えないためにも、子どもを責めてはいけません。
また、子どもの性被害の場合、事案の態様によっては、後で警察・検察・児童相談所等による司法面接が行われるかもしれません。それ以前に根掘り葉掘り子どもに細かく質問しないということも非常に重要です。「誰に」「何を」されたのかという情報を確認することは必要なのですが、無理に話を引き出そうとせず、とにかく子どもが言っていることをそのまま聞きましょう。例えば子どもが「おじさん」と言ったら、「おじさんなんだね」と繰り返します。「お兄さんでしょう?」などと、聞く側の判断を入れないように気をつけてください。特に子どもの時間感覚は変わりやすいので、記憶が改竄されたり、証言が信用されなかったりすることがないよう、医療対応が優先されるときを除き、「いつ被害に遭ったのか」という質問はしないでほしいと思います。
結局のところ、「相談する・される」には信頼関係がベースとなります。SNSのつながりに頼る子どもの背景には、自分を大切にしてくれたり、認めてくれたりする相手がほしいという気持ちがあり、リアルな関係でそれを満たすことができているかどうか、大人は考える必要があるでしょう。何かあったときに相談できる相手が親以外にいるなどリアルな人間関係を充実させていくことで、SNSにのめり込む子どもの心に風穴を開けることもできるのではないかと思います。
――デジタル性暴力の被害に遭ったとき、どこに相談すればいいでしょうか。
ここまで子どもの被害を中心に話してきましたが、デジタル性暴力は年齢や性別を問わず、誰もが被害者になる可能性があります。もちろん、成人がSNSやマッチングアプリにアクセスすることは個人の自由な選択とみなされます。しかし、被害に遭ったときには「自分にも非があったのだから」と泣き寝入りするのではなく、警察に相談してほしいと思います。被害の証拠があれば、それを消さずに持参しましょう。
いきなり警察に行くことに抵抗があるなら、例えば「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」や民間の支援団体などで話を聞いてもらえますし、警察に届け出るかどうかといった相談もできます。これは子どもが被害者の場合も同じで、学校やスクールカウンセラーなども相談先の選択肢となるでしょう。
デジタル性暴力を受けたときの相談先や被害に遭ったときの対応は、リアルな性暴力のケースと共通します。被害者自身が被害を認識するのは、意外と難しいものです。特に男性が被害者のケースでは、被害に遭ったこと自体を恥と思う感覚が強く、誰にも打ち明けられない人も多いですが、「こんなことで相談していいのだろうか」と思うような出来事でも、第三者から見れば「それは明らかな性暴力ですよ」と判断できることがあります。ぜひためらわずに相談してみてください。

CSAM
シーサム。Child Sexual Abuse Materialの略。子どもを性的に扱う画像、動画、音声などのコンテンツの総称。「児童ポルノ」といわれることも多いが、「ポルノ」は出演者の同意を前提とする性的産業の商品であり、そもそも同意ができない年齢の児童の性的コンテンツを示す言葉としてはふさわしくないとされ、近年はCSAMへの言い換えが提唱されている。なお、日本では、アニメやCG等のCSAMは「表現の自由」との兼ね合いから規制されていない。