流れは大きく変わりつつあると実感します」
●月経周期に関係があった要因、なかった要因
調査では、「月経周期と季節の関係」「月経周期と居住地の関係」「月経周期と年齢の関係」という3つのテーマに沿って、約32万人、600万月経周期の情報が分析されている。このうち、「最初のふたつに関しては、『ほとんど影響がない』という結果となった」と鳴海医師は言う。
「この3つはどれも、数百、数千のデータで検証することは非常に難しいテーマです。他国にない日本の特徴として人種や文化、生活習慣にそれほど大きな違いがない一方、春夏秋冬の季節や地域ごとの気温や日照時間が異なるということがあります。人間も生き物ですから、季節や居住地の環境に影響を受けていた野生動物時代の名残が部分的にあるようで、実際、以前に行った研究では『0~1歳の子どもの身長は夏に一番伸びる』という結果が出ているんです。もっとも結局、月経周期については季節も居住地もほとんど影響がないということがわかりましたが、これだけ大量のデータで検証できたので、これはもう間違いがないといえるでしょう」
一方、年齢と月経周期の関係については、15歳から5歳ごとに区切って月経周期データを解析したところ、年代によって月経周期が変化することが具体的なかたちで見えてきたという。
「日本産科婦人科学会は『正常月経周期』を25~38日としていますが、『10代後半は月経周期が「短い」人も「長い」人も多い』『月経周期の平均値は25歳頃に最も長くなり、その後45歳にかけて、最長期に比べて平均値が約3日間短くなる』ということが明らかになりました。今回の調査では、なぜ年齢によって月経周期が変化するのかというメカニズムまでは解明できていないのですが、たとえば『45歳にかけて月経周期平均値が約3日間短くなる』ということについては、今回の研究の少し前に行われた海外の共同研究でも同様の結果が出ており、人種に関係なく、月経周期は閉経期までの約20年間で3日間短くなると考えられます」
これらは、臨床現場では経験知としてすでに知られていたとも言えるが、信頼あるデータに基づき一般化して説明できることで、医師の経験の多寡にかかわらず、よりきめ細かい診察も可能になる。
「『正常』とされる25〜38日の月経周期は15~19歳で77%なのに対し、20~24歳で82.3%、25~29歳で86.1%、30~34歳で87.6%と、30代に向かうにつれ、月経周期が安定する人が増える方向に推移しています。ですから、たとえば10代後半と30代とでは『月経周期24日』の意味合いがかなり違ってくるということになるでしょう。通常、『月経周期24日』は頻発月経とみなされますが、10代後半の女性に対しては『年齢が上がれば長くなっていく可能性が高いので、少し様子を見ましょう』というアドバイスを、医学的な裏付けをもってできるようになります」
●月経・妊娠の基礎情報がアップデートされる
共同調査は、すでに第2弾が動き始めており、今度は睡眠時間、通勤時間、労働時間などの詳細な生活環境因子と、月経や妊娠との関係を明らかにすることを目的とした調査を行っていくという。
「月経周期にはストレスや寝不足、勤務形態など、生活環境やこころの健康も影響していると考えられますが、実際のところはよくわかっていません。これらについては個人差が大きいため、第2弾の調査は、ユーザー参加型研究として行います。目標協力者数1万人はすでに達成しており、1回につき30~40問のアンケートを行い、それに対する回答を個人が特定できないかたちで集計し、アプリに集積された月経周期情報と共に解析していく予定です」(鳴海医師)
第2弾の調査では、月経周期のデータといつ妊娠したかというデータを紐付けて分析するが、これは国際的にもまったく前例がない調査だという。
「妊娠や出産については『コーヒーは避けたほうがいい』など、医学的に不確かな情報が飛び交っていて、混乱する方も多いのではないかと思いますが、ビッグデータを解析することによって、今後、きちんとしたエビデンスを示せるようになっていくはずです」と鳴海医師は期待をこめる。
テクノロジーや医療が進化する中、月経をはじめとする女性のヘルスケアに関する情報がどのようにアップデートされていくのか、これからも要注目だ。
「ルナルナ」
2000年から開始した、女性の体調管理のためのデジタルサービス。現在はスマートフォン向けアプリを中心に提供されている。直近の月経開始日などを入力することで、排卵日や月経周期、妊娠しやすい(しにくい)時期などを予測することができる。無料から有料まで、需要にあわせてさまざまなプランがある。また、基礎体温を記録できる「ルナルナ 体温ノート」、妊娠・育児中の女性向けの「ルナルナ ベビー」といったアプリもある。