構想に3年ほどかかりましたが、まずは「最初に射精を覚えたときからこういうことを知っていれば大人になってから困らない」という基本を「思春期編」とし、最終的に16箇条になりました。僕自身の講演でも使うほか、さまざまな方の性教育でも紹介していただいています。
「射精道」というネーミングは「武士道」から来ています。武士道で説かれているのが、武士、つまり刀を持っている者のあるべき姿だとするなら、陰茎(ペニス)を持つ男子がペニスを使うときに守らなければならないルールが「射精道」、というコンセプトです。刀がペニスで、刀を使う訓練がオナニー(マスターベーション)、そして実際に刀を使う立ち合いが本番のセックスという位置づけになります。
刀を持っている武士だからといって、訓練もせず、いきなり斬り合うのではあまりにも危険です。それと同じで、セックスをするためには普段の鍛錬(マスターベーション)が必要であり、本番で使うペニスという持ち物も大事にしないといけません。また、弱い者や罪のない人を斬ってはいけないというのが武士の矜持(きょうじ)だとすると、性欲だけで突っ走ってペニスを滅多やたらに使うのはよくない、ということになります。
また、学校という場所で射精について教えるわけですから、僕個人の意見ではなく、「常識としてこうあるべきだ」という社会通念的な要素も入れ込みたいと考えました。それもあって、先生方も好意的に「射精道」を受けて入れてくれているようです。
いつ頃から「射精道」を教えるかという点では、射精をするようになる小学校高学年頃がスタートだと考えています。成長の度合いによっては、その年齢の男子全員が知っておく必要はないかもしれませんが、少なくとも早熟な子の目に留まるようにしてあげたいですね。
「射精道」の16箇条は、できるようになってしまえば、複雑でも難しいことでもありません。たとえば「十、出てくる精液はティッシュで受け止めるべし」など、中には「そんなの知ってるよ」と言われるようなものもあるかもしれませんが、これは「精液は意外と遠くまで飛ぶので、周りにかからないように」という意味で入れていて、思春期の男子であれば知らない子もいる可能性があるわけです。そういう男子たちのためにも最低限押さえるべき、知っておかないと困る内容を過不足なく入れることにしました。
射精の「練習」に励むべし
「射精道」で最初に掲げたのは、「一、オナニーを基本とする」です。
マスターベーションもろくにしないでいきなりセックスという大事な本番を迎えたとして、最初からうまくできるとはとても思えません。自分自身の思春期を振り返ってみても、マスターベーションを始めた頃は、思いもしないときに勝手に精液が出てしまったりして、自分の思い通りに射精できるようになるまで半年以上かかりました。つまり、うまく射精するにはマスターベーションという「練習」を繰り返し、コツをつかむことが必要なのです。
たとえば女性がセックスでいつもオーガズムに達せるとは限らないのと同じで、男性もセックスの度に必ず射精できるわけではありません。これは男性でないとなかなかわからない感覚だと思いますが、射精はたとえば走り幅跳びのように、助走からホップ、ステップ、ジャンプとタイミングよくいかないと、うまくできないんです。タイミングがずれると少ししか精液が出なかったり、精液が出ない“空撃ち”のような感じになったりします。
いわゆる「いい射精」は、ピッと勢いよく遠くに飛ばすような射精です。昔、寮生活をしている男子学生が皆で飛ばしっこをして、一番遠くまで飛ばせたやつが勝ち、みたいなことをやっていたなんて話も聞いたことがありますが(笑)、これはマスターベーションの訓練という意味で、実はとても理にかなっているんですね。
また、セックスで相手に合わせて射精するには、ある程度自分で意図して、このタイミングで出せるよう、自分で射精をコントロールできることが必要になってきます。「九、少し我慢してから発射すべし」「十三、射精を自在にコントロールできるようになることを目標とすべし」で伝えているように、目指すべきところはコントロールされた射精です。
「テクノブレイク」は存在しない
普通、思春期の男子は言われなくてもどんどんマスターベーションをするものです。やりたくてやっているので「練習」という意識はありませんし、できてしまえば気持ちいいので、何回でも率先してやるので上達が早い、ともいえます。
ところが、中には「マスターベーションをすることに罪悪感を感じる」「精液が気持ち悪い」という感覚をもつ子が一定の割合で存在します。なぜ罪悪感を覚えるのかということについては説明がつかないのですが、おそらく精液はネバネバしていて、あまりいい匂いもしないということで、汚いと感じるのかもしれません。といっても、大便や鼻水、あるいは女性の経血と一緒で、生理現象として自分の体から出てくるものなのだから、折り合いをつけて生きていくしかありません。「射精道」ではマスターベーションに対してプラスのイメージをもてるように、「十一、オナニーは一日に何回してもよし」「十二、気持ちのいいオナニーを追求すべし」と伝えています。
男子たちには「射精は気持ちいい、楽しいことだ」「だから、いくらでもやっていい」と思ってほしいですね。男子生徒から必ずといっていいほど挙がる質問のひとつが「テクノブレイク(過度なマスターベーションで死に至る現象を指すネットスラング)はあるのか」ですが、マスターベーションのしすぎで死ぬことはありません。「マスターベーションをやりすぎると勉強の妨げになるのではないか」「部活の試合の前にはしない方がいいのか」なども定番の質問ですが、これもやはり一切関係ありません。
どんなに性欲が強い男性でも、2~3回続けてマスターベーションをすれば「賢者タイム」(射精した後、急激に性欲が減少し、気だるさや虚無感が続く時間)が訪れますから、男子たちが心配するほど「やりすぎ」にはならない、ということです。彼らには、「したいのに我慢して悶々とするより、射精してすっきりしてから勉強ややるべきことに取り組んだほうがよほどいい」と話しています。
包茎の悩みは減ってきた?
一方、なかなか皆の前では口に出しづらいのが自分の性器やからだについての悩みで、ある程度想定される疑問については、聞かれなくても話の中に入れるようにしています。