治療方法:主にペニシリン剤の内服(第1期は2~4週間、第2期は4~8週間。感染後1年以上経過、あるいは感染時期が不明な場合は8~12週間)。海外では、ペニシリンの筋肉注射が主流。なお、2020年の日本性感染症学会治療ガイドラインでは、早期梅毒(感染から1年以内の活動性梅毒)はアモキシシリン(「パセトシン」〈登録商標〉など)1500mgを4週間内服投与するとなった。
「梅毒の症状は『偽装の達人』と言われるほど、きわめて多彩です。第1期と第2期の症状が混在して現れることがあり、進行形態も複雑になってきている他、性器ヘルペスとの混合感染、他の性感染症との重複感染も増えています。医師には、丁寧な問診、診察が求められますが、一時期、梅毒は患者数が非常に少なかったため、診療経験がほとんどない若い医師もいます。また、世界の標準治療はペニシリンの筋肉注射(ベンジルペニシリンベンザチン筋肉注射薬「ステルイズ」〈登録商標〉)で、1回で第1期、第2期の梅毒の治療が完了します。日本でも「ステルイズ」が2021年9月に承認されました(編集部追記:2022年1月に販売が開始)。この薬が医療現場で活用され、患者さんの福音になることを希望します」(尾上先生)
性器クラミジア感染症
特徴:日本で最も多い性感染症で、性的接触によってクラミジア・トラコマティスという細菌に感染することで発症する。幅広い年齢で見られるが、特に性行動が活発な10代後半~20代に多く、女性の感染者は男性の2倍以上である。検査できるようになるのは、感染から2~3日後。
腟性交だけではなく、オーラルセックス(口腔性交。クンニリングス〈舌による女性器への接触〉やフェラチオ〈舌、口腔による男性器への接触〉、リミング〈舌による肛門への接触〉など)によりのどに感染するケース(咽頭クラミジア)も増加傾向にあり、アナルセックス(肛門性交)では肛門に感染する。また、尿を通じても感染する。完治できるが、免疫はできないため、何度でも感染する。
進行すると卵管や精巣上体に炎症が起こり、男女とも不妊症の原因となる。また、妊娠時に子宮外妊娠、流産、早産、死産を引き起こす可能性があり、出産時に母子感染が起こることもある。
年間新規感染者数:2万7221件(2019年。定点報告)
症状:男性の50%、女性の70~80%が無症状で、症状が出ても男女とも軽い場合が多く、放置されがちである。
症状が出る場合は、男性は感染後1~3週間後、尿道のかゆみ、違和感、不快感(軽い痛みなど)があり、尿道から少量のさらさらした透明な分泌物が出ることもある。症状が進むと精巣上体炎を起こし、不妊の原因となることもある。
女性は感染後、おりものの増加、下腹部痛、不正出血、排尿痛、性交痛などが見られる。症状が進行すると、子宮頸管炎から卵管炎、卵管狭窄となり子宮外妊娠や骨盤腹膜炎、肝周囲炎を引き起こす可能性がある。
オーラルセックスで口腔・咽頭、アナルセックスで肛門に感染した場合、ほとんど無症状。咽頭クラミジアでは、風邪のようなのどの痛みが続くこともある。
また、精液を顔にかける「顔射」等の性行為により、病原体が目に入ると結膜炎になることもある。病原体が目から鼻を通って咽頭に感染したり、のどから耳に移動して中耳炎になったりするケースも見られる。
治療方法:抗菌薬を1~7日内服する。治療開始から治癒確認まで約2~3週間。
「2013年~2014年にかけて妊婦検診におけるクラミジア感染率を調査した報告によると、全体で2.4%の妊婦に感染が見られました。年代別では19歳以下が15.3%、20~24歳が7.3%、25~29歳が2.2%、30~34歳が1.2%、35~39歳が0.8%、40歳以上が0.9%と、若い妊婦の感染率が高い傾向があります。妊娠を契機に検査したことで感染が判明したということは、妊娠しなければ感染に気づかないままだった可能性が高いです。クラミジアは症状を感じにくい一方、1回の性行為における感染の可能性は30~50%と比較的高いですから、男女問わず定期的な検査をおすすめします」(尾上先生)
淋菌(りんきん)感染症(淋病)
特徴:淋菌によって感染する。男性にははっきりした症状が出るが、女性の80%は無症状である。主な症状は、男性は尿道炎、女性は子宮頸管炎だが、性器だけではなく咽頭に同時に感染しているケースも少なくないため、片方を見落としていると完治せず、感染を広げることがある。2002年をピークに減少傾向にあるが、近年、従来の薬(抗生物質)では治らない淋菌の変異株が登場するなど、多剤耐性淋菌が問題になっている。免疫はできないため、何度でも感染する。検査は感染機会からすぐ受けられる。
年間新規感染者数:8205件(2019年。定点報告)
定点報告
※感染症法により、地方自治体が定める国内約1000カ所の医療機関には、感染例を保健所に報告することが義務づけられている。
全数報告
※感染症法により、全感染例を保健所に報告することが医師に義務づけられている。
AIDS
Acquired Immunodeficiency Syndrome