男性はY染色体上のSRY遺伝子によって原始生殖細胞が精巣に分化し、Y染色体を持たない女性の場合はSRY遺伝子が作用せず、卵巣に分化するのです。その後、妊娠24週までの時期に精巣から分泌されるテストステロンのはたらきで、男性は男性の外性器がつくられ、テストステロンが分泌されない女性は女性の外性器がつくられます。
しかし、ホルモンの合成にかかわる酵素の欠損など、なんらかのホルモン分泌異常やホルモン受容体の異常が起こると、精巣があるのに男性外性器が発達しなかったり、卵巣があるのに女性外性器が発達しなかったりするなど、性の分化異常が起こります。なお、海外では妊娠中に母親が飲んだホルモン剤が性分化に影響するとも指摘されています。
外性器と内性器の不一致や、性器の未発達といったケースは、染色体の変化やホルモン変動に関わらず起こる場合も多く、合わせて性分化疾患というカテゴリーに分類されます。小児科や小児泌尿器科、小児内分泌科の医師のサポートも受けながら、見た目だけではなく、ホルモン値や、ホルモン合成にかかわる酵素をつくる遺伝子等の検査を行いつつ、場合によっては不足している性ホルモンを補充したり、あるいは性自認に合わせた外性器にする手術を行ったりするなどの処置が可能です。
性ホルモンの適正なバランスを保つには
ホルモンはごく微量で効果を発揮します。女性ホルモンの場合、一生で分泌されるのはティースプーン1杯程度にすぎません。性ホルモンは「活力」「元気」といったイメージと結びついており、中には「長生きに関係する」といった説もあるため、「足りなくなったら、どんどん補充すればよいのでは」と思う人もいるかもしれません。しかしホルモンは、多すぎても少なすぎてもなんらかの不調を引き起こします。
分泌過多は性ホルモン依存性疾患(性ホルモンが多いことで発症・悪化する病気のこと)の発生につながる可能性があります。性ホルモン依存性疾患とは、男性ホルモンならば前立腺がん、女性ホルモンならば乳がん、子宮体がん、子宮筋腫、子宮内膜症などのことです。また、女性の更年期や、不妊症の卵胞発育不全に対し、少量の男性ホルモンを補充すると効果があるという報告もありますが、誰に対しても必ず効くということではなく、さらなる研究が必要です。
これらのことから、性ホルモンはただ増やせばよいわけではなく、分泌量の適正なバランスが保たれているかどうか、さらに女性の場合であれば周期的な変動がきちんと維持されているかどうかということに、より気を配るべきでしょう。
性ホルモンの適切な分泌に、「これをやればいい」というピンポイント的な対策はありません。食生活でいえば、性ホルモンの原料であるコレステロールが不足すると分泌に影響が出てしまいますから、必要量を摂ることは大切です。ただし、コレステロールをたくさん摂取すれば比例的にホルモンの分泌が増えるわけではありませんし、コレステロールの摂りすぎは動脈硬化などまた別のリスクを誘発します。ちなみに、焼肉屋等で食べる「ホルモン」は豚などの内臓の総称で、食べてもホルモン分泌とは無関係です。
また、運動は男性ホルモンの分泌力を高めるともいわれますが、だからといって、ひたすら運動だけをすればよいかといえば、そんなことはありません。性ホルモンの分泌をコントロールする脳の視床下部は心身のストレスの影響を受けやすいので、結局のところ、ストレスをためない生活が性ホルモンのバランスを保つといえます。適切な体重を維持し、バランスのよい食事を摂り、適度に運動して十分に睡眠時間を取るといった、「健康に良い」ごく基本的な生活習慣を毎日コツコツと続けることをお勧めします。
女性の更年期の不調を和らげるためのホルモン補充療法、また一部の泌尿器科で対応している男性の加齢に伴う男性ホルモン補充療法を受けるときは、過剰投与や長期間投与のリスクを考慮し、必ず専門医(ホルモン補充療法の経験がある医師)を受診しましょう。また、海外で販売されているサプリメントには国内では一般販売が禁止されているホルモン(またはホルモン様作用を持つ物質)が配合されている場合もあるので、自己判断で使用せず、できれば医師の指導の下で服用するのが安心です。