【脳から性腺に司令がいく仕組み】
性ホルモンは一般に「男性ホルモン(アンドロゲン:テストステロン、副腎性アンドロゲン)」「女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)」と呼ばれます。男女ともに両方の性ホルモンを有していますが、男性の場合は男性ホルモン、女性は女性ホルモンが相対的に多いという特徴があります。このため、男性の体は女性に比べて骨が太く、筋肉量が多くなり、女性は乳房が発達し、皮下脂肪が多く形成されるなど妊娠可能な体になります。たとえば男性ホルモンは決断力や判断力につながるなど、性ホルモンはメンタルにも作用しますが、男性ホルモンや女性ホルモンの値だけで、男女における精神的な特徴が決定的に違ってくるわけではありません。
人間の一生における性ホルモンの分泌量の変動も、男女で大きく異なります。思春期から20代前半にかけて、男性は男性ホルモンの、女性は女性ホルモンの分泌量が急上昇していきますが、女性は女性ホルモンが閉経(月経の停止)前後に急激に減少するのに対し、男性の男性ホルモンは40代からゆるやかに減っていきます。また、女性は毎月の月経でも女性ホルモンの変動がありますので、その影響を受けやすいといえます。男性の男性ホルモンにも、1日の間で朝が最もテストステロンの分泌量が多いなどの日中変動がありますが、毎月の女性ホルモンの変動と比較すると、心身に影響を及ぼすほどの変化ではありません。
女性ホルモンは妊娠中および産褥期にも大きく変動します。妊娠中に上昇し、分娩時をピークにがくんと分泌量が下がりますから、産後の女性が体験するホルモンバランスの変化はかなり激しいものといえ、これは産後うつの一因ともなっています。
【女性ホルモンの月内変動】
性ホルモンと性分化
男性ホルモン、女性ホルモンは、それぞれ男性、女性の体内にしか存在しないものではありません。男性の体内でも「女性ホルモン」が、女性の体内でも「男性ホルモン」がそれぞれわずかながら分泌され、心身の健康に影響を与えています。
さらに、男性でも女性ホルモンが多い、または女性でも男性ホルモンが多いというケースもありますが、その要因は人によって異なります。たとえば、南アフリカのオリンピック女子陸上メダリスト、キャスター・セメンヤ選手は、先天的に男性ホルモン(特にテストステロン)が多く分泌される体質で、筋肉量が増え、骨格がしっかりした体になったと考えられていますが、原因はよくわかっていません(ちなみに、テストステロンはドーピングで禁止されている筋肉増強剤のひとつでもあります)。
そもそも、性別は誰もが女性、男性のどちらかにくっきり分けられるというものではなく、生まれたときに外性器を見ただけでは「あれ、どっちだろう?」とはっきりしないことも起こります。原因のひとつに、人間が持つ46本の染色体の中で性分化を担う2本の「性染色体」の構造や数に変化が見られる、といったことが挙げられます。2本の性染色体のうち、女性はX染色体が2本、男性はXとYの染色体が1本ずつあるといいますが、女性でもY染色体を持っている人やXが1本しかない人がいたり、男性でもXが2本ある人もいたりするなど、実際には曖昧な部分が存在します。そうした染色体の組み合わせで、胎児の外性器の男女どちらに分化するかにかかわる性ホルモンのバランスも変わってくるのです。
胎児期の性分化について簡略に説明すると、妊娠8週で性腺が男女に分かれます。