でもラッキーでしたね、安全なラーメン屋さんがそこにあって。私が今、Colaboの活動を通して出会う子たちの中には、そういう逃げ場のない子が圧倒的に多くて、だから事件に巻き込まれたりするの。
橋本 逃げ場は大事ですよね。家にいたら、親とけんかしかしないし、平和なんて家庭にないし、っていう状況って絶対ある。そういう時は、そもそも家にいないほうがいいんですよ。だけど、行き場がなければどうにもならない。ハンバーガーショップでもなんでもいいから、一人の居場所を持てたらいいんですけど、なかなかそうもいかないですしね。
仁藤 そう。だから今、活動で出会う子たちは、LINEで泊めてくれる人を探したりしてる。怪しい男性に声をかけられても、付いて行ってしまう。24時間子どもを保護したり、夜の居場所を確保するサポート体制が整っていない傍ら、ネットで簡単につながりを持ててしまうから、悪循環に陥っているんです。
橋本 これは経験者にしかわからないかもしれないけど、親とうまくいかない時って、本当にどうしようもない。子どもにとっては心の休まる場所がない。親は親だから、もちろん子どものことを思っている。だから単純なけんかじゃなくて、励ましもある。でも、それがしんどい。結局、自分が帰る場所は家しかないし、帰れば親から「どこに行っていたの、何で行ったの」と責められて、嫌になって、そのループ。
仁藤 そうなんですよね。中にはけんかというレベルを超えて、虐待されている子もいるわけで……。そういう子にとって、家が危険地帯なのは当たり前なんです。
橋本 私は親とはうまくいかなかった時期が長かったけど、虐待されたとは思わなかった。どこかに愛を感じられるところがあった。だから、それは救いだとは思うんです。
仁藤 私も虐待されてきた、とは思ってこなかった。でもある時、講演で自分の経験を話したら、ある人から「それも虐待ですよね」と言われてハッとしたことがある。最近、親の過干渉のことを「優しい虐待」と表現しますね。私や甜歌さんが親からされてきたのは、それなのかもしれない。私は「優しい虐待」という言葉は、よくないと思っています。虐待を親からの優しさなんだと思って、我慢する子が増えたら嫌だから。
橋本 優しくないですもんね、実際。私の場合は、反抗心があったから親とやりあえたけど、気づかないで親の言いなりになって、心を苦しめることもあると思う。洗脳されるというか。自分の本当にしたいことを探せないで、親の言うままに進路を決めたりとか。それも過干渉なんじゃないかな、って。
仁藤 虐待は、殴る、蹴るなどの身体的な暴力だけではなく、種類があります。「身体的虐待」「精神的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「過度の過干渉」など。親に「産まなきゃよかった」と言われるなど、精神的な虐待の場合は、まわりも気づきにくい。
橋本 私は親に嫌なこと言われたら全部メモして、「これ虐待だからな! 警察か児相(児童相談所)に持っていくよ!」と言ったりしてました。虐待されたと思っていなかった、と言ったばかりでちょっと矛盾しているけど。
仁藤 わかりますよ。甜歌さんはたぶん、もともと自分をしっかり持っていて、強い気持ちがあるんだよね。戦う力があったんだと思う。
橋本 うーん……。そうかもしれないけど、今でもあの頃の気持ちは全部覚えている。悔しかったこと、つらかったこと、悲しかったこと、絶対消えないんですよね。例えば眠る前とか、ふとした瞬間に思いがよみがえってきたりする。「終わったことだけど、マジむかつく」って思う。そういう時はホントに苦しい。
仁藤 私も、今は親との関係は落ち着いたとはいえ、あの頃の気持ちって忘れられない。
橋本 私、まだ出産のことは考えてないんですが、ふと「女の子が生まれたら、私、もしかして愛せないんじゃないか」って思っちゃったりするんですよ。
仁藤 わかる。自分が心配になる。似た経験をしてきた友達が、「子どもが生まれたら虐待しちゃいそう」と不安がっているのを見て、その気持ちがすごくわかってしまう。
橋本 そうなんですよ……。私の場合は、母と弟の関係を見ていると、息子なら大丈夫かもって思う。母は私には異常に厳しかったけど、弟には甘いんです。弟は門限もないし。それに、私自身が難しい子どもだった自覚があるから、自分の性格が遺伝しちゃうんじゃないか、とか。私みたいな子だったら、その子自身苦労するだろうし、かわいそうなんじゃないか、とか……。
仁藤 そういう不安って、拭い去れないよね。自分の母親から日常的にされてきたことを、忘れられないのだもの。
橋本 親との問題を抱えている時、私は誰かほかの大人に相談したほうがいい、と思うんです。親子の関係って、子どもだけで変えられることじゃないから。学校の先生に相談できれば、それに越したことはないんでしょうが、実際問題それはちょっと難しいんじゃないかなと思います。誰にも言えない、知られたくないことって、身近な大人には相談できないものじゃないですか。学校の先生に話したら、きっとほかの人の耳にも入るだろうって、子どもだってわかってる。
仁藤 そうだよね。
橋本 一番いいのは、何も知らない第三者に相談することだと思うんです。だから仁藤さんのような人に出会えた子は、救われる可能性がある。でも、そうじゃない子は、ネットの「ヤフー知恵袋」だっていいと思うんですよ。他人からの冷静なアドバイスを聞いて、少しでも自分の気持ちを楽にして、自分をいじめないでほしい。
仁藤 うん。「助けて」と声を上げるのは難しいけど、それができない状態が一番つらい。大人に期待なんかできない、大人は信頼できない、と思っているかもしれないけど、5人に話せば一人ぐらいは一緒に考えてくれる大人がいると思う。10代の頃は私も、「誰もわかってくれない」と思っていたけど、きっと信頼できる大人はいるんです。あきらめないで、声を上げる勇気をもってほしいよね。甜歌さん、今日はどうもありがとうございました。
このコラムのバックナンバー
1~5ランキング
連載コラム一覧
もっと見る
閉じる