なだめるように別の議員が「長年、若い女性たちと関わってきた産婦人科医なんですよ」と私に向かって言い、司会の議員が「ご専門家である先生からご講義いただきありがとうございます」と言って話題を変えたことに、苦笑いしかできなかった。
何でもかんでも家庭の責任
会議が終わった後、赤枝議員が私のところにやって来て「なんか僕の言ってることおかしいかな?」と聞いてきた。しかしそれは、「自分の考えが間違っているなら教えてほしい」というよりも、「君は分かっていないから教えてあげる」という態度に感じたが、無視されるよりは関心を持ってもらえたほうがいいと思って答えた。以下、その時の会話を紹介したい。
議員「母親が愛情をかけないといけないと思うよ」
仁藤「いやあ、お母さんがいない子もいるしなと思って」
議員「父子家庭なら父親が母親役もしないといけないんだよ。母子家庭なら母親は父親役もする。それができないといけない」
仁藤「お母さんができないなら地域の人がやればいいですよね」
議員「家庭の中で家族がやらなきゃいけないんだよ」
仁藤「でも、お母さんも仕事で忙しかったりしますよね」
議員「それでもせめて17時までには帰宅する。お母さんはそれができないと」
仁藤「それができるくらい女性の給料が上がればいいんですけど」
議員「そういう問題ではなくて、母とのコミュニケーションの問題だよ」
仁藤「子どもとの時間を作りたくてもお金がなくて夜遅くまで働かないといけない人もいるんですよ」
議員「そんなことを言っているんじゃない」
仁藤「実際にそうやって働かないと生活していけない人もいるんですよ。背景に貧困や障害を抱えた親もいます」
議員「そんな特殊な事例を基準に考えちゃだめだよ」
仁藤「特殊じゃなくなっていると思います。たくさんいますよ」
議員「そんなことはない」
仁藤「実際そういう現状があるんですよ」
議員「どんな家庭でもせめて1歳まではお母さんが面倒をみる。その後はどうしても難しいならよそに預けても仕方ないかもしれないが基本は家庭。お母さんとのコミュニケーションが大切」
彼は性暴力に対し、母親の愛情や関係性の問題だと本当に信じ込んでいるようだった。こんな人に「女の子はすごい!」とか言われてもうれしくない。そもそも評価をしようとしているのがおかしい。根っこには「母親が悪い」という発想があるのだと思った。私は勉強会の初めに自己紹介的に自分の中高生時代の体験(家族との関係はよくなかった)についても少し触れたので、私のことを「特殊な家庭で育った子」と思ったのかもしれない。
人を差別していることに気づかず、偉そうに持論を展開するような大人や自分の権威性をアピールするような大人に出会うと、屈辱的な気持ちにさせられたり、心がえぐられる感じになる。この時も、これ以上話していたら具合が悪くなりそうだったので、「だったらそういう余裕をお母さんが持てるように、国会議員として活動してください」と言って話を終わらせてしまった。
それでも納得がいかない顔をしていたので、また機会があれば議論したいと思うが、できれば他の誰か、権威があると彼が認める医師などが正しい認識を伝えることでしか考えを改めてもらえないかもしれないな、と思った。
とにかく、すべては「家庭の問題」「母親の問題」と本気で思っているようだった。性暴力や子どもの性の商品化についても、社会の問題として捉え、背景にある女性差別や格差に目を向けていかなければなくならないのに。
無自覚な女性蔑視を感じる
赤枝議員はかつて、子どもの貧困対策を推進する会合でも、貧困の背景について「親に言われて仕方なく進学しても女の子はキャバクラに行く」など問題視された発言をしている。
朝日新聞の記事によると、2016年4月に行われたその会合では、支援団体や児童養護施設出身の大学生が奨学金制度の拡充を求めたのに対し、「がっかりした。高校や大学は自分の責任で行くものだ」と主張し、その上で「中学校を卒業した子どもたちは仕方なく親が行けってんで通信(課程)に行き、やっぱりだめで女の子はキャバクラ行ったり」と話し、その後望まない妊娠をして離婚し、元夫側から養育費を受けられず貧困になる、義務教育を「しっかりやれば貧困はあり得ないと言いたいくらい大事」と、ここでも持論を展開していた(16年4月12日、朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/articles/ASJ4D6DSWJ4DUTFL00T.html)
また、インターネットで配信されたインタビュー動画では「セックスはやっぱり男性が主導権を持っている。今は男はヤリ目。みんなやらせてくれればいい、巨乳だったらいい。昔は頭がよければいい人、よい女の子、スタイルがいいと決まってた。付き合う、選ぶ時。今は逆だからね。今は見かけといっても、巨乳であればいい見かけ。キャバ嬢も60万から70万払って(胸を)入れると、急に指名が増えるんだよ。巨乳。おっぱい星人があまりにも多い。(みなさんも)そうでしょう?」「男言葉を使う女の子がいる」「性について(子どもに)もっと隠したほうがよい」などの持論を展開し、AV女優などと親交があることを自慢げに話している。
また、「国会の質問でも文科省(文部科学省)や厚労省の大臣に『3P』『アナル』などと言っている。安倍(晋三)総理に『自分の質問はいつも下ネタから入っていくので済みません』と言ったら『いいですよ。先生の常識で質問しているのでドンドンやってください。僕には訊かないで』と言われた。中絶や性病の事も含め国会でそういうことを言った人はいない」などとも話していて、性の問題や性教育と下ネタを混同している様子である。
司会者が「リアルな声を知っている人は先生以外には永田町にはいない」と言うと、「そうです。性の問題についてここまでつっこんで聞いた人は僕以外にこれまでいない」といい、売春している女子中高生も「自分には話したがる」「自分にはなんでも言える」と自信満々である。(13年7月24日、みわちゃんねる 突撃永田町!! http://miwachannel.com/%E8%B5%A4%E6%9E%9D-%E6%81%92%E9%9B%84/)
私は、女性蔑視が身に付きすぎて「自分は差別なんてしていない。女性に感謝しているし、女性を大切にしている」と、本気で思っている60代、70代の男性に出会うことが少なくないが、彼にもその匂いがする。
今、私が出会い関わっているような中高生や性暴力被害者女性にも、彼はこれまで出会ってきたはずだ。母子家庭や父子家庭、ステップファミリーなどの多様な家族があることや、女性の賃金が低いこと、子どもの貧困が6人に1人であることなども数字では知っているはずである。しかし、個人の問題として自己責任論で語ることで、本質が見えていないのだと思った。
今回の私のエッセーに対して、「大人の対応をして、もっとうまくやればいいのに」という声が周囲から聞こえてきそうだが、これまで仕方ないこととして諦めたり、それぞれの利益や守りたいもののためにたくさんの大人たちが目をつぶり、「大人の対応」をしてきた結果がこうなのだ。私は、どんな場面でも、Colaboとつながる女の子たちに見せられない態度はとりたくない。
私はこんな議員に期待したい
今春から新生活を始めた女の子に、住民票を移す手続きについて話した。彼女はこれまで安定した生活を送っておらず、住民票の住所と違う場所を転々としながら、転居手続きをせずにいた。
「住民票移すとなにかいいこと、あるの?」と聞かれ、「選挙の投票券とか年金関係の書類とかも自分の家に届くようになるよ」と私が話すと「選挙とか行かないし、興味ないから関係ないー」と返ってきた。大人に期待できないから、選挙に行こうとも思わないのかもしれない。彼女も虐待や性暴力のサバイバーであり、今回の議員の発言を知って驚いていた。
でも私たちが選挙に行かないと、苦しいところにいる人のことを理解できない人ばかりが議員になって、税金から多額の給料をもらい、その人たちの理解や利益にあった政治をし、法律を作って、どんどん私たちが苦しめられてしまう。そう分かっていても、生活が苦しかったり、教育を受ける機会がなかったり、情報を得る手段がなかったり、政治のことを考えられるような余裕のない生活を送っていると、誰がどんな議員か分からない。だから私は、今回こんな議員と出会ったことを、ここに書きたいと思った。
私は、声をあげられずにいる人々や、自分が見たことのないものを「ないもの」と決めつけるのではなく、想像力を持てる国会議員が増えてほしい。