仁藤 同じような状況に置かれた人のために、声を上げ、現状を伝えようとしているんですね。日本でもColaboのシェルターで暮らす子たちが、「かつての自分のような子のためにできることがあれば」と、夜の街での少女たちへの声掛けの活動などを一緒にしてくれています。
一人だけでも助けられるなら
オスコウイ 興味本位で作られたドキュメンタリー番組などでは、こうした更生施設の子らはみな汚くて、悪い子で、とても社会復帰は無理というようなネガティブなところしか見せていないんですね。でも、それだと彼らは刑期を終えて施設を出ても社会から疎外され、薬物依存になるかストリートチルドレンになってのたれ死ぬしかない。政府もそうした闇には蓋をしたがります。だから私はその蓋を開けて、一人だけでも助けられるなら助けてあげたい、そういう気持ちがすごくあるんです。
仁藤 イランでも日本でも、社会の多くの人はこうした問題を見て見ぬふりしたいんですね。
オスコウイ この映画では子どもたちだけでなく、親たちも多くを学んだと思います。いつかわが子が同じようになるかもしれない。私はそうした悲劇を繰り返させないために、この映画を撮りました。ことが起きてしまった後では、私たちの映像はもう何の役にも立たないんです。だから、日本で今、自殺する子が多いという話を聞いて、何が彼女らを追い詰めているのか大人たちに考えてもらうきっかけになればありがたいですね。
仁藤 私たちが関わっている女の子たちがこの映画を観た時に、「すごく共感するけど、これが日本でも起きてることだって思う人はどれだけいるんだろう?」と言っていました。この国でも間違いなく同じようなことが起きています。でもそれを知らない多くの日本人は、この映画を観ても「イランは大変な国だな」とか、他人事としてとらえるかもしれません。
オスコウイ 以前、こんなことがありました。フランスを訪れた時に「パリ郊外で『少女は夜明けに夢をみる』を上映するので、ぜひ来てください」と言われて出掛けたところ、そこには少年院に入所している400人の子どもたちが映画を観るために集まっていたんです。
仁藤 すごいですね。
オスコウイ 企画したのはとても著名なソーシャルワーカーと権利擁護団体だったのですが、上映前に「監督、もしこの子たちが映画を観てブーイングをしたり、怒鳴ったり、あなたを罵ったり、席を立ったりしても気にしないで」って言われました。ところが上映が始まっても誰一人動く気配がないし、真っ暗な会場からは鼻をすする音だけが聞こえました。で、上映が終わって明かりが点くと、みな目を真っ赤にしていたんです。映画に共感して、感動してくれたことが嬉しくて、その日私は一晩泣き明かしました。たった一人、または一つの家族でも救うことができたのなら、私は目的を果たしたと思っています。なぜなら私はそのために自殺願望を捨てて、映画監督になったのだから。
仁藤 日本の少年院でも上映できたらいいのに。日本の少年院では自分がやったことに対する反省を徹底されるので、背景にどんな事情があろうとも「私が悪い」「私に原因がある」って思い込まされている子もすごく多い。映画でも法廷で「ごめんなさい」と言うシーンがあったけど、日本では警察に捕まった時なども「とにかく謝っとけ」っていう、あんな感じなんですよ。だけどイランの少女たちは、カメラの前では「本当は私たちは悪くないでしょ?」と自分で言葉にしている。日本ではそういう本音を言える場がないと思います。少年院でそんなことを言ったら外に出られなくなります。「自分が悪い」と思い込まされている子どもたちも、この映画を観れば自分のことを整理できるんじゃないかなって思いました。
オスコウイ おっしゃる通り。この映画の中の彼女たちの多くは、自分では抗いようもない運命の中で犯罪者になってしまった。ただ私が思うのは、起きてしまったことを云々するよりも、親や家族を始め社会の大人たちが、こうした現実に目を向けることで良い方向へ変わってほしいということなんです。
仁藤 私自身はこの映画を観て、収監されている女の子同士の関わりに生じるエンパワーメントみたいなものがすごく描かれていて、いいなと思ったんですよ。それは日本の少年院ではあり得ないことです。日本の少年院では私語は禁止だし、自分のの名前も、どういう罪で入ったかとかも一切話しちゃいけないので……。
オスコウイ そのことについて誰も異議を唱えないのですか? 私は相手が国でも、理屈に合わない、おかしな点があればどんどん質問や抗議をすべきだと考えています。そうでないと権力者たちは保身にとらわれて動こうとしない。
仁藤 そうなんです。まずは声を上げることが大切です。あと、私がこの映画を日本で苦しい状況に置かれている子どもたちにも観てもらいたいと思ったのは、分かろうとしている大人や、同じような経験をしながら生きている子が他にもいることを知ってほしいと思ったからです。とくに日本の一時保護所や少年院の中では誰もが孤独で、一人ぼっちだと感じているから、「そうじゃないよ」ってことが伝えられるんじゃないかなって。それと、私と一緒に観た少年院への入所経験のある女の子が言ったのが、「この施設では痛みを分かち合えるのがすごくうらやましい」ということでした。
オスコウイ もし機会があれば、私もそうした日本で救いを求めている子どもたちに実際に会って話がしたいです。例えば映画を上映してその後で意見交換をするのもいいですね。もしも呼んでいただけたらいつでも行きますよ。
仁藤 女の子たちは、みんな口々に「オスコウイ監督ってどんな人なんだろう?」って話していました。監督はインタビューでも声だけの出演だったから、「すごい気になる」って言ってましたよ。もし本当にそんな機会に恵まれることがあったら、ソマイエも連れてきてくださいね(笑)。
オスコウイ もちろん連れてきますよ(笑)。ただ、ソマイエは渡航ビザをもらえるかどうか……。その時は子どもたちの声を録音して送ってください。彼女たちも顔は出せなくても、音声だけなら大丈夫なのでしょう? そうしたらソマイエに聞かせて、彼女から一人ひとりにメッセージを返してもらいます。インターネットを使ったビデオ通話も考えましたが、ソマイエは恥ずかしくて電話もできないぐらいシャイな子なんです。