しかし、そもそも、将来にわたって取り返しのつかない重大な被害が発生する恐れがあること、生殖機能の保護が必要なことをなぜ契約に含まれるものと認めるのか。
「心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがある」こと、また、現に生じていることを認めるのであれば、その原因となるAVの制作をさせないことが必要なのではないか。そうでなければ被害を防ぐことはできない。契約方法や制作行為に対する規制が足りないから被害が起きているのではないし、法案にある通り「相談体制」を整備したとしても、被害者が相談するのは被害に遭った後であり、この法案では被害の拡大を防ぐことも不可能だ。
さらに罰則規定として、説明書面や契約書等を交付せず、虚偽の書面を交付した場合は処罰の対象になると書かれている。これはまさにAV業者が現在も行っている「自主規制」を参考にしたものだ。AV業者は契約の際に脅しや強制がないことを証明するため、契約の様子を録画していると話していた。前述したようにAV業者と被害者には対等な関係性はなく、「契約書」や「説明」もAV業者が自身の正当性を主張するためのものである。
AV業者がもしも「将来にわたって取り返しのつかない重大な被害が発生する恐れがあること」を丁寧にしっかりと書面で説明したとして、出演交渉を受けるのは男女不平等社会の中で性売買に追い込まれる女性たちである。AV業者との決して対等でない関係性の中で同意せざるを得ない状況にあっても、「本人が同意した」ということで「本番行為」も契約に入れられてしまう。つまり、この法案では実際に今も起きているそのような被害が防げず、それどころか女性たちに自己責任を押し付けるものになっている。
私は、要望書のすべてが反映されないのであれば、この新法はないほうがよく、あっても被害者救済につながらないどころか、被害を拡大し、さらなる女性差別や人権侵害が生じることになると考えている。「まずは作って、後からよいものにしていけば?」と簡単に言う人もいるが、日本では法律は一旦通れば改正は簡単ではない。
まずは18〜19歳を救済する「取り消し権」の特例法を作り、AV全体の問題については議論の積み重ねが必要だ。AV業者や購買者、消費者の目線で書かれた法案がこのまま成立してしまえば、事実上のAV合法化に繋がり、AV業者に自身の正当性を主張するために使われることは確実だ。
5月22日に東京・新宿で実施された「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」は、大きな反響を呼んで国会も注視している。市民で反対の声をあげ、世論を高めることが必要だ。