売春防止法では、買う側は「相手方」として受動的な存在に位置づけられ、第5条の勧誘罪は「売春の相手になるよう勧誘した側(大抵が女性方)」にしか適用されない。大久保公園の周辺では、買う側の男たちのほうから「いくら?」と女性に声をかけているのに、彼らに勧誘罪は適用されないのだ。少女や女性を騙して儲けているホストらも、売春防止法を意識し、斡旋で自分が捕まらないように細心の注意を払いながら女性たちを「売春」に誘導している。つまり、女性が自主的に体を売るように仕向ける、そのように持っていくことに長けていて、研修やマニュアルまで共有されているし、複数人でのグルーミングも日々行っている。
なので、被害の渦中にいる少女たちと知り合うと、「彼のために自分が好きでやっているから」と本気で言ってくることもよくある。少女や女性たちがそう思うようにホストはさまざまな手口で誘導しているし、街の雰囲気もそれが当たり前のことであるかのように維持され、さらにはホストや性売買の問題を正しく報じたり教育したりしない社会も今の状況を後押ししているからだ。
このような社会では、少女や女性たちが自分の被害を被害と認識することもできない。それによって利益を得ているのは誰なのかを、私たちはよく見きわめなければならない。「悪質ホスト問題」対策などというまやかしに騙されてはいけない。新宿区長は「業界と対話」した中で、業界団体をつくって自主規制を行うことを求めたとされる。しかし、裏を返せば自主規制で「優良店」をアピールすることにより、この業界を守っていくという話し合いにも受け取れる。
特に被害が深刻な歌舞伎町では、ホテルや飲食店、酒屋や花屋、美容室、病院や整形業者など、多くの業者が性売買によって利益を得ており、商店街振興組合にもホストクラブが加盟し理事をやっていたりする。ホストや性売買業者は福祉事業にも手を出し、地域の清掃ボランティアにも積極的に参加するなどして社会に貢献しているように見せ、クリーンなイメージを付ける努力も惜しまない。
どうも権力者同士で今の地位や男社会を守り合い、女性が利益をもたらしてくれるこの街のありようは維持したいと考えているようだ。だから表面的な対策のみで、本質を覆い隠そうとするのだろう。そうした街では、男たちも安心して買春ができる。少女や女性たちを「安く」「気軽に」買えることが評判となり、大学生やサラリーマンが2人連れどころか5、6人の団体連れで楽しそうに買春しに来たり、世界中から買春男が訪れたりもしている。昨今は警察や行政、メディアがしきりにこの問題を騒ぎ立てているので、警戒した買春者は目立たず行動するようになっているが、しばらくして話題性が薄まればまた戻ってくるだろう。
北欧やフランス、韓国などでは買春者や業者を処罰し、性売買の中にいた女性には処罰ではなく医療的、心理的、法的、経済的、教育的なケアをして人権と生活保障を基盤に脱性売買支援を行う法律がある。日本でも「買春者処罰法」こそ必要であり、女性が性売買しなくても生きていけるように国が責任を持って動くべきだ。そのためにも表面的な対策で業界を守る流れには騙されず、現実に何が起きているのかを知ることが必要だ。少女や女性たちへの性搾取の実態を覆い隠したい――そう考えている人が結構多いことも、私たちは知っておかなければならない。