先日、○○市の区役所へ未成年であるA子の相談に同行した。彼女は親から虐待を受けて育っていて、Colabo(コラボ)と繋がっていた彼女の友達の紹介で、15歳の時に私と知り合った。Colaboで一時的に居場所を提供した後、弁護士や児童相談所と協力して親との関係を断ち、ある施設に入所したが、厳しいルールやスタッフの指導になじめず黙って出てきた。
数日後、「こんなことになってごめん。うちにはもう耐えられない。今いる場所は教えられない。危ない所にはいないから安心して」と連絡があった。
施設関係者や児童相談所は、彼女を心配し、また自分たちの責任問題にも関わることから彼女を探していたが、彼女は児童相談所に追われるのを恐れて、支援者たちと連絡を絶とうとしていた。というのも、A子は過去に一時保護所(児童相談所に付設された18歳未満の子どもを留め置く施設)という所にも入所した経験があり、そこでの生活が管理的で窮屈であったため、また自分の自由が奪われるような所に連れていかれるのではないかと恐れたのだ。
居場所を関係者に伝えないことを約束して彼女と再会すると、彼女は友達に「寮付きで働ける」と声を掛けられて、店長もボーイもスタッフの女の子たちも全員が16歳という違法な夜の店で働き、そこで働く少年少女たちだけで生活を始めていた。当てがあったから施設を出ていったのだと言うけれど、その時、私は「よりましな選択肢」を提示できなかったことが悔やまれた(こうした経験を重ねる中で、少女たちがいつでも気軽に泊まれる場所を作りたいと、のちに私たちはシェルターを開設した)。
夜の店からは抜けられたものの
Colaboでは、たまにお茶をして、近況を聞いたり話したりする関係を続けていた。
ある日、「店を辞めたくても辞めさせてもらえない。彼と一緒に逃げたいが、匿ってもらえる所を知らないか?」と連絡があった。店で働く男の子と付き合い始めたことをきっかけに、オーナーに仕事を辞めたいと申し出ると、店のバックに暴力団が付いていることをちらつかせながら「辞めたらどうなるか分かっているか。△△(地名)を歩けなくさせてやる」と脅されたという。
こういう場合、今であればColaboのシェルターにまず来て泊まってもらうことを提案できるが、当時は私自身もパートナーと暮らす自宅を開放して宿泊所に充てており、その時は私が地方へ出張中ですぐに迎えに行くということができなかった。すると数日のうちに彼の親がアパートを借りてくれ、そこに住めることになったという。心配ではあったが、彼の両親は良くしてくれていると言い、彼女はそこで暮らすことを決めた。
働いていた店に対しては、給料の未払いや違法な仕事の強要など、本人が望めば店に対して法的手段を取ることも考えられた。が、彼女が未成年で、しかも家族を頼れない状況で違法行為に関わったことを公的機関が認識した時、「非行」や「犯罪」に関わったとして補導や取り調べの対象になったり、見守る大人がおらず、帰れる家もないという理由から(もちろん関わった事件や補導歴などの内容によるが)少年院行きになったりする可能性もあることを、彼女はそれまでの生活を通して感じていた。
子どもができて生活が変わった
A子は親や児童相談所に連絡されることを拒んでいて、仕事や生活の中で性被害に遭っても警察に行くことはできなかったし、弁護士にも頼りたくないと言っていた。「18歳になるまでは、児童相談所と関わらないために身を隠して生活する」と言い、その後しばらく連絡を取ることがなかった間に、彼女は妊娠した。
彼の両親が連れて行った病院のソーシャルワーカーの勧めで、行政の支援を受けながら出産ができた時点で連絡をもらい、様子を見に行くと彼の職場の寮で過ごしていた。
家には定期的に保健師が家庭訪問をしていて、行政の支援も受け入れ、役所の人とも関わりながら子育てをする彼女の姿に、子どものためにいくつもの決断をして努力しているとのこと。彼女の力を改めて感じ尊敬した。
「子どもができてから生活が変わり、自分の時間や、おしゃれや好きなことに使えるお金もなくなった。同年代の友達と話も合わなくなって、出掛ける機会もなくなった。彼に対していろいろ思うところもあるけれど、愚痴れる人もいない。でも、今はこの子といられることが幸せ」と言って、赤ちゃんを抱いていた。
彼からのDVに悩みながら、家を出るにも出られず、ほぼ毎日家の中だけで過ごす彼女たちが気になって、月に1、2度様子を見に行くようになった。出産を控えた別の女の子と一緒に彼女の家を訪ね、子ども服やベビーカーのお下がりをもらったこともあった。
母子生活支援を求めて区役所へ
彼との別れを考え始めた頃、スーパーで子どもを抱えたA子を、彼女の親の知人が偶然見掛けたことをきっかけに彼女は両親と再会。彼と別れ、実家に戻ることにしたと連絡をもらった。戻ってしばらくは家族とうまくいっていたが、数カ月でかつてのような関係に戻ってしまい、このままでは自分にとっても、子どもにとっても良くないと考えた彼女は「家を出る方法はないか?」と相談してくれた。
彼女は自分でお金を貯めて家を出ることも考えたが、アルバイトをするには、子どもを保育園に預けなければならない。役所に相談すると、待機児童が多く保育園にはすぐに入れないことや、彼女が収入のある親(子どもにとっては祖父)の世帯に入っていることで保育料も高くなっており、支払うことができない。そうかといって、子どもを見てくれる人もいないので、働きたくても働けずにいた。
病気や障害を抱えた家族もいて、親からの金銭的援助は望めず、彼女は手持ちのお金と貯金を合わせても数千円しか持っていなかった。また、未成年のため自分で家を借りることにもハードルがあった。Colaboが運営しているのは中高生向けのシェルターであり、一時的な宿泊はしてもらえても、母子で安全に生活できるような環境は整っていなかった。
そこで、母子生活支援施設を利用するか、生活保護を利用してアパートに転居し、生活の立て直しができないかと本人と相談し、役所に行くことにした。
今日、今すぐにというのは難しい
母子生活支援施設は、児童福祉法38条に基づいて作られた施設で、18歳未満の子どもを養育している母子や、何らかの事情で離婚届が出せていないが母子家庭に準ずる女性と子どもが、自立に向けて生活できる施設だ。経済的理由、病気や障害による生活困窮、夫などからのDVや虐待から逃れるためなど、さまざまな理由で入所する母子を支援している。私も、温かい雰囲気の施設が多いと知人から聞いていて、保育士など専門家による子どもの一時保育も利用でき、子育てに良い環境が用意されている。
入所には役所からの紹介が必要なため、最初に母子支援を担当する窓口に行って相談員に事情を話すと、「どこにお住まいですか?」と聞かれ、答えると「今日はあなたの地域の担当者が不在なので、また電話で相談して下さい」と言われた。今暮らせる場所がなく困っていること、手持ちのお金もなく、支援してほしいことを話すと、「今日、今すぐにということは難しいので、後日改めて電話をして下さい」と言われた。
彼女は、これまでにも担当者に電話で相談したけれど、具体的な支援はしてもらえなかったこと、このままでは食べていくこともできないことを訴えると、「今すぐにでもどこか入れる所が必要ということですか。お子さんは連れてきていないようですが、どうするのですか? 荷物はどうしますか? 今すぐ持ってくることはできるのですか?」と聞かれた。
彼女は経験上、こうした相談は長時間になることが分かっていたので、子どもを家族に預けて来ているけれど、今すぐにでも家を出たいこと、すぐに行ける場所があれば、子どもを迎えに行き、今日にでも移動したいことを伝えた。
すると、「今日の今日で入れる所は簡単には見つからない」「お金がないのなら生活保護を担当する窓口へ行くように」と言われた。たらい回しにするような対応が既に問題だが、母子支援担当課としてすぐに動くことはできないと言う。それなら生活支援窓口まで同行して相談に同席し、一緒に考えてほしいと伝えると、「分かりました」と言ったものの、窓口に案内し、簡単に事情を話しただけで相談員は帰ってしまった。