布施祐仁に聞く
元山仁士郎(聞き手) 日米地位協定が結ばれてからは57年ほど経ち、地位協定の前身である行政協定から数えると、65年ほど経過しています。行政協定とほぼ中身が一緒で、この間地位協定は一度も改定されてこなかった。日米地位協定はどのように改正すればいいのでしょうか。
布施祐仁 地位協定にはたくさんの条項がありますので、一つひとつを見ると色々と問題があります。この異常な日米地位協定の根底にあるのはなにか。それは、日本政府が、「米軍に日本の法律が適用されないのは原則であり、それが国際的な通例だ」という説明を国民にしていることです。
ドイツやイタリア、アフガニスタンの地位協定は、基本(的なスタンス)がまったく違います。属地主義といって、例えばドイツであれば、(ドイツ人であろうが、アメリカ人であろうが、いわば米軍であろうが)基本的にはドイツの法令が適用されます。しかし、いくつかのことに関しては、例外的にそこから免除するというのが、ドイツの地位協定の考え方なのです。
ですから、(日米)地位協定を改定する場合には、基本的には日本の法律、日本の主権が適用されるようにする。しかし米軍が活動する上で、どうしても必要な部分について例外的にいくつかの特権を認める。そういう形に変えることが一番重要なのではないかと思います。
伊勢崎賢治に聞く
元山仁士郎(聞き手) 日米地位協定は問題だと指摘していますが、どのように変えればいいのでしょうか。
伊勢崎賢治 日米地位協定をおかしいと言っているのは、実はアメリカの方なのです。今の日本は戦時中ではないから、主権の度合いが非常に高いはずです。ところが、アフガニスタンやイラクが米軍に放棄しているものに比べたら、日本が放棄している権利というのは、植民地に近いようなものだと言えます。
それでも(日本には)アメリカのおかげで平和だという人がいる。今までは、それが(日米地位協定を)変えない理由だったわけです。どんなに差別的なことでも、やっぱりアメリカのおかげで守られているのだから仕方がない、と日本人の大半は思ってきたわけです。しかし、これからはそのようにはなりません。
米・アフガニスタン戦争に関しては、もう17年間戦っている。アメリカ建国史上最長の戦争です。あの強大なNATOという軍事同盟が、全員で戦ってもいまだに(アフガニスタンでは)勝利することができない。
アメリカが本当に強くて、オールマイティーであれば、(日本も)何も考えずにそれについていくという道があったかもしれません。しかしアメリカは、自分が敵わない敵を(自ら)作ってしまった。アメリカと兄弟仁義を結んでいる日本は(その敵から)どのように見えるか――日本がアメリカの代わりに狙われるリスクを考えなければいけない時代になったのです。だから地位協定を改定するには、主体的に軍事を考えるようなマインドセットを日本人は作らないといけない。
例えばトルコ(の例を見てみましょう)。トルコというのは、シリアの上にあります。(アメリカは)トルコにも米軍基地を持っていますので、そこから(シリアに)空爆しようとしました。しかし、もし(シリアに)反撃されたら、もっとも狙われやすいのはシリアと接しているトルコです。(トルコは)もし開戦したらどこが先に狙われるかということを主体的に考えられることができたから、アメリカに(在トルコ米軍基地からシリアへの空爆を)ノーと言いました。
アメリカが北朝鮮と戦争する時に、事前通告してもらえるかどうかでやきもきしているのは、日本と韓国だけです。そんなことは他の国ではありえない。なぜなら日韓は開戦すれば被害国なのです。(それに対して)アメリカは被害国ではない。その負い目を知っているのは、アメリカ自身なんです。なぜその観点から(日本はアメリカに)ノーと言えないのか。そこが問題なのです。
元山仁士郎 伊勢崎さんは、『主権なき平和国家』の中で地位協定改定案を示していますが、改定する以前に、日本人のなかにある「主権意識のなさ」というのを変えないといけないということですか。
伊勢崎賢治 そうです。主権が当たり前だという意識をもたなければいけない。