猫にお仕えする喜び
加藤 猫って2匹以上で飼うと、先住猫が新入り猫にいろいろ教えてくれます。うちの猫たちは代々、棚の上に乗らないんですが、何で乗らないんだろうって考えたら、最初の猫が乗らなかったからなんですね。江川 うちは本箱の上もテーブルの上も冷蔵庫の上も乗れるところは乗り尽くした感じです。朝、私が寝坊してなかなかごはんを出さないと、チビが本箱の上からお腹めがけて飛んでくることがありました。はっと目が覚めて気配を感じたので、とっさに腹筋に力を入れて防御したんですが、あれ、痛いですよね(笑)。お給仕係はさっさと起きて、お給仕しないとだめってことですね。
加藤 猫が起こしに来た時に起きるから来るんですよ。猫は飼い主を上手に利用しますからね。「猫にしつけられた」って私は言ってるんですが。
江川 私はタレとチビに結構お仕えしてました。
加藤 うちの猫は台所でごはんを食べていたんですが、冬に床が冷たいだろうと思って、ホットカーペットの上に誘導してごはんをあげたんです。そしたら、ある時から私が台所で猫の食事の支度をしていると、ホットカーペットの上で待つようになって、あれ、私なんで猫にごはんを出前しているんだろうって(笑)。キャットフードのCMで「振り回されるって幸せだ~」っていうフレーズがあるんですが、その通りだと思います。
江川 お仕えする喜び、みたいな(笑)。だから今、お仕えする存在がいないのが非常に寂しいです。
加藤 猫の話をして、江川さんの印象が変わりました。世間は真剣な顔つきでオウム真理教問題などを話している江川さんしか知らないから、なんだか怖い人なんじゃないかというイメージでした。でも、なーんだ、フニャフニャの猫好きじゃんって(笑)。
江川 テレビの影響ってどうなんですかね(苦笑)。私はオウムに限らず、社会問題について取材やコメントをすることが多いですから、笑いながらできる話ではないですよね。だから、おもしろい話を聞いて笑ったりすると、「笑うんですね」って言われちゃうんです。そりゃあ普通に笑いますよ。
加藤 ツイッターで「おはようございますにゃん」って書いていることも、何か言われたりしませんか。
江川 言われます言われます(笑)。
加藤 猫好きってそうなっちゃうよね、当たり前です(笑)。
江川 はい、猫はそういう存在ですから。そう言えば、チビは人懐こくて自分が常に注目を集めていたいタイプで、私が取材を受けている時、みんなの視線が私に向いているのが気に入らないんです。オウムについて真剣に話をしているのに、テレビカメラの前にチビがぽんと飛び出してくることがあり、これじゃあ取材にならないからと、キャリーバッグの中に入れると、ニャアニャア鳴いてうるさくて、なかなか収録できないこともありました(笑)。
加藤 猫が出てきたら、頬が緩んじゃいますね。私たちがテレビで江川さんがまじめな顔で話しているのを見ている裏側では、そんなことが起こっていたのですね。
猫たちがいない部屋は冷たい
加藤 タレとチビが立て続けに逝ってしまい、寂しいですね。江川 タレが逝ってチビが逝って、その後、すぐにうちの父も亡くなったんです。だから、気持ちの切り替えなんてしばらくできませんでした。喪失感を埋めるには時間がかかります。
加藤 年を重ねていくごとに気持ちの立て直しにも時間がかかります。タレとチビはどうしたんですか?
江川 火葬して、お骨はまだうちにあります。
加藤 どうしますか? その遺骨。
江川 私が死んだら一緒に焼いてもらおうと思っているんです。かかりつけの獣医さんに聞いたのですが、病院に来ている飼い主さんで、自分が死んだ時にきれいなレースの袋にペットの遺骨を入れて遺品の一つとして入れて一緒に焼いてもらうと言っている人がいるというので、それはいいなと。
加藤 名案ですね。確かにお墓は宗派によっては一緒に入れないところがあるけれど、遺品として焼いてしまえばわからないですもんね。故人が大切にしていたものだからってことで。でも、きちんとそれをメモに残しておかないといけないですよね。入れ忘れられたら大変!
江川 そうなんですよ。だから四方八方に言って回らないといけないと思っています。
加藤 1年の間に2匹ともいなくなってしまったら、生活変わりますよね。
江川 はい、変わりました。なんというか、もう……。19年ですから、人生のかなり重要な部分を共に過ごしてきました。猫たちがいなくなり、家に帰ると部屋が冷たいんですよ。
加藤 わかります。私もかつて猫が1匹もいなくなってしまったことがありました。当時は40代で、猫がいなくなったら泊まりで出掛けるのも楽になると思ったのです。でもある日、家に帰って玄関のドアを開けた途端、「あ、家が死んでる。ダメだ」と感じて、すぐに知り合いの動物病院から猫を引き取りました。江川さんはまた猫を飼わないのですか?
江川 私はタレとチビがまたうちに来たくなったら、生まれ変わって来るんじゃないかと思って待っているんです。どちらの猫も「出会っちゃった」という感じだったので、こっちから探しに行くのではなくて、そういう出会いがあったら戻ってきてくれたんだなとまた猫を飼うつもりなんですが、まだ出会いがありません。
加藤 江川さん、5歳くらいの猫とかどうですか? みんな子猫ばっかり欲しがるけど、1歳以上の猫の方が性格も健康状態も全部わかっていて飼いやすいので、私は成猫の引き取りをお勧めしているんです。
江川 5歳くらいからでも馴れるものですか?
加藤 元々人に飼われていた猫ならば馴れるのは問題ないですよ。