なんで生きてるだけで、見知らぬ酔っ払いにダメ出しされなきゃいけないんだろう……。しかも、たかが靴の形状で。が、以来、私はヒールのある靴しか履けなくなった。「靴ごときで」ダメ出しされないための自衛として。20歳頃の私にとって、それが「デリカシーのかけらもない酔っ払い」であっても、男性からのダメ出しは、心をえぐるものだった。
が、そんな私も40代。加齢とともにヒールもきつくなってきた。
もともと私は10代で外反母趾に苦しんだという経歴を持っている。原因は、高校時代の熱烈なバンギャ活動にあった。安物のピンヒールなんかで「追っかけ」をしていたのである。大好きなヴィジュアル系バンドのメンバーの乗った車を、全速力で走って追いかけるなどの活動をライフワークとしていたのだ。今思えば、時速80キロとかで走る車になぜ「走る」ことで追い付けると思ったのか、走ることが分かりきっているのになぜピンヒールだったのか、すべてが謎だが、若さとバカさが混同した10代のバンギャには何を言っても意味がない。
が、ある日、そんな私の足に激痛が走った。ライブ中もピンヒールで立ちっぱなし、その後追っかけという日々だったのだから激痛が走るのは時間の問題だった。足の親指付け根の痛みは日を追うごとにひどくなり、母親に「それは間違いなく外反母趾だ、そんな靴を履いていたら当然だ」と言われ、私はヒールを手放した。一時期はヒールを見たり、「ハイヒール」という言葉を聞いたりするだけで足に独特の痛みが走るほどだった。今も、あの冷や汗が滲むほどの痛みはリアルに覚えている。
それ以来、私はあまり高いヒールは履いていない。しかし、まったくぺたんこの靴を履く勇気も持てないでいた。でも、ヒールって疲れる……。
そんな時に始まった「#KuToo」。これにかこつけて、私もヒールをやめてみた。
もちろん履きたい時は履くけれど、無理して履いていた無理をやめたのだ。そうしたら、なんと快適なことだろう。私はよくデモに行くのだが、デモのあと、必ず攣(つ)っていた足が攣らない。今年の初め、生まれて初めてぎっくり腰になって以来、ずっと腰が不調だったのがみるみるよくなった。仕事上、ずっと靴を履いている必要などない私でさえそうなのだ。これで1日8時間立ちっぱなしだったり移動しっぱなしの人だったら、どれほど身体への負担が減るだろう。健康被害につながるようなヒール、パンプスの着用が、今まで強制されていたことがおかしすぎるのだ。
「#KuToo」を受けてだろう、「女性だけメガネ禁止」というような職場ルールに疑問の声を上げる動きも出てきた。そんな動きを見守っていたのだが、最近、大きな前進があった。
11月19日、加藤勝信厚生労働大臣が、女性だけメガネ禁止・パンプス強制はハラスメントであると答弁したのだ。福島みずほ議員の質問に答えて、参議院の厚労委員会での発言だった。
「男女雇用機会均等法の趣旨に照らせば、同じ職務に従事して、同じ状況で、同じ仕事をして、少なくとも男女において、男性はよくて女性はダメだというのは、これは趣旨に合っていないと思います」
これはメガネについての発言だが、女性のみヒールのない靴がダメ、というのも同じく均等法上NGだろう。
このように、今、「みんながおかしいと思ってたけど誰も声を上げなかったこと」について、声を上げると事態がどんどん動くということが起きている。明らかに合理性も整合性もない謎習慣だったからだ。そしてそこに、多分に性差別的なものが含まれているからだ。
たった一人の女性の「おかしいよね?」という声が、今、この国の職場の光景を変えようとしている。
令和の時代は、もっともっと女性が生きやすい社会になりますように。
19年を振り返りつつ、そう祈っている。
次回は2020年1月15日(水)の予定です。