そしてやはり9月なかばに報じられたのが、巨人・坂本勇人選手の女性とのトラブル。避妊せず性行為をして女性が妊娠すると中絶を迫り、追い詰められた女性が自殺未遂をした件だ。証拠音声もあることから大きな注目を集め、また批判の声も多く上がっているのだが、これに対するある「擁護」がすごかった。
それは元野球選手の笠原将生氏。自身のYouTubeチャンネルで、「女が悪い」「中に出されたくなかったら抵抗できると思うんすよ」などと二次加害のオンパレード。挙句の果てには「15人堕したとか10人堕したとか5人堕したとか全然野球選手、いるわけよ」などと発言。野球選手なら「あるある」とでもいうような、特権意識と選民意識を丸出しにした発言に、そしてそれを堂々と口にする姿にただただ衝撃を受けた。彼の周りでは、それが「常識」で、その発言が社会からどう受け止められるか想像もしていないのだろう。
やはり、この国の政界やスポーツ界などには、昭和で時が止まっている人々がいまだ存在するのである。無知とは、本当に恐ろしいものである。もはや加害行為となっている彼の動画を見ながら、本当に痛ましい気持ちになった。
さて、香川氏は仕事を失い、ミシュラン店の店主は顔も名前も店名もすべて晒され、「みんなが憧れる1つ星の天才料理人」から「ゲスすぎるレイプ魔」となった。準強制性交罪の法定刑は「5年以上の有期懲役」。罰金刑はない。裁判はこれからだが、少なくとも5年は刑務所暮らしとなるわけだ。
同志社大学の学生たちも準強制性交罪。せっかくアメフト部で活躍していたのに、自ら起こした加害行為によって人生は大きく変わった。しかも顔も名前もネットに出回っている。出所した後はどうするのだろう。
公明党の熊野議員は参議院議員を辞職。自らの妄想LINEによって6年分の議員歳費が吹っ飛んだわけである。参議院議員の歳費はボーナス込みで年2180万円だから6年で1億3080万円。それがパーである。というか、彼が辞職しなければ、この「妄想LINE男」に、6年間でそれだけの税金が支払われていたのだ。
そして坂本選手だが、報道後も普通に試合に出続けているという。問題をスルーする巨人軍には批判の声が寄せられているというが、この件、どうなるのだろう。
さて、ここまで書いてきたように、坂本選手以外は多くのものを失っている(彼も報道によって失ったものは多くあるだろうが)。このように、性加害は、加害者にとってもリスクが高いものである。すべてを失い、家族も失い、これまでのキャリアも何もかもパーになる可能性があるということ。そのことをもっと世間に知らしめるべきではないのだろうか。
なぜなら、「モラル」とか「女性をモノ扱いせず対等に接する」とかのアドバイスがまったくもってひとつも通じない人たちがこの世には大勢いるからである。そのような人に何をどこから言えばいいのか、まずそこからわからない。それは彼らが「そんなことを理解してもなんのメリットもない」と思っているからで、であれば、そういうタイプには「こういうことをしたらこうなる」というリスクを見せつけることしか抑止力にならないのでは、と思うのだ。
そしてここまで書いてきたことでもうひとつ、非常にモヤモヤすることがあるので書いておきたい。それは、性加害やハラスメント、暴力などの加害者の扱いについて、刑事事件になった場合を除いて「明確な基準」がないことだ。
例えば野球選手が中絶を迫った女性が自殺未遂を起こしても変わらず試合に出続けられるのに、芸能人の不倫や女性トラブルは時にワイドショー挙げての大騒ぎとなり、謹慎が続くケースは多い。
同じ芸能人でも、立場によって随分違う。例えば16年、『新婚さんいらっしゃい!』(朝日放送テレビ)でおなじみの桂文枝(桂三枝)氏の不倫騒動がメディアで騒がれたが、テレビ局は「引き続き、出て頂く」と明言。また、19年にはその不倫相手が自宅で睡眠導入剤など多くの薬を服用して亡くなったことが報じられたが、それでも22年3月まで、桂文枝氏は「新婚さん」の司会をつとめた。
また、宮崎県知事戦への出馬を表明したタレントの東国原英夫氏についても思うところがある。
1998年に東国原氏がサービスを受けた風俗店の女性が16歳だったことが発覚し、「淫行騒動」と騒がれ謹慎となったことは多くの人が知るところだ。が、これは現在だったら、確実に「復帰などありえずアウト」案件だと私は思う。なぜなら、「満18歳に満たない者」が性的サービスに従事していることは「人身取引」にあたる可能性が高いからだ。ヒューマントラフィッキングといわれる人身取引は重大な人権侵害であり、麻薬に次ぐ世界第2の犯罪産業である。「人身取引」と言うと海外の話、もしくは外国人の話でしょ、と思うかもしれないが、日本で人身取引に取り組む団体に来る相談のうち4割が日本人からのものだ。
が、まだまだ人身取引という言葉も知られず、「男の性欲」周りに今よりずっと世間が寛大だった90年代、東国原氏は「謹慎」期間を経て復活。今に至るまでテレビに出続け、宮崎県知事にまで登りつめた。
そんな、「何かをやらかした人の扱いの基準がまったくもって適当」というのが、私がもっともモヤモヤするところなのだ。
ある人は笑って許され、ある人は厳しく断罪されてすべてを失う。ある人は謹慎で済み、ある人は永久追放となる。それを決めるのが「世間の空気」っぽいところにもさらにモヤモヤする。単なる「運次第」となっている限り、再発防止のルールなど決して作れないからだ。