その数日後にはSNSで「イスラム教徒に配慮した給食」が話題に。誤情報が拡散された結果、福岡県北九州市の教育委員会に「少数のムスリムのために対応をするのか」など1000件を超す抗議が殺到。市教委は会見を開き、「決定した事実はない」と説明。
9月22日頃には福岡県福岡市で「移民マンション」が建設されると話題に。こちらも誤情報だったが、「入居者の大半が中国や台湾で永住希望」などの情報が拡散され、県には約100件の苦情が寄せられた。
そうして9月22日に告示された自民党総裁選での「ヘイト合戦」のような様相は先に書いた通り。
9月27日には、北海道札幌市でインド系インターナショナルスクール建設についての住民説明会が反対の声で「大荒れ」となり、警察が出動する事態に。
そんな中、9月30日にはここまでの外国人排斥をいさめるような動きがある。韓国訪問中の石破茂総理が、ある人の墓参りをするのだ。その人は、イ・スヒョンさん。01年、JR新大久保駅(東京・新宿区)で線路に転落した日本人男性を助けようとして亡くなった人だ。イさんの墓前に献花した石破総理は、排外主義に抗う姿を見せたと話題になった。
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10月に入ると、秋葉原(東京・千代田区)にモスクができるとSNSで騒ぎになり、また10日には「不法滞在者ゼロプラン」に基づき強制送還された外国人が119人であることが発表される。
「ルールを守らない外国人に係る報道がなされるなど国民の間で不安が高まっている」として5月に打ち出されたこのプラン、一言でいえば「強制送還キャンペーン」だ。そんなゼロプランに基づいて今年6〜8月に送還されたのが119人。前年同期は58人なので倍以上。
もっとも多いのはトルコで34人(大半はクルド人と思われる)。ついでスリランカ、フィリピン、中国と続くのだが、送還されたうちの3割、36人が難民申請中であること、また、1〜8月に送還された中には18歳以下の子どもが7人含まれることが人道上、問題ではという声が上がった。
難民申請中の強制送還はしないのが国際的なルールである上、送還された子どもたちは日本生まれ、もしくは幼少期に来日し日本育ちで母語は日本語。突然「送還」されても「母国」には行ったこともなく、言葉もルールもわからない。そんな場所に送還されるのは酷すぎるという理由だ。
「不法滞在者」と言われる中にはこのような子どもが含まれているわけだが、排外的な世論をバックにつけた出入国在留管理庁(入管庁)は、これからも強制送還を強行することが予想される。
そうして10月12日、北海道札幌市で移民政策反対デモ(鈴木直道知事リコール、反メガソーラー、中国に土地を売るな、水資源、土地を取り戻せなど論点はたくさんあったようだ)が開催され、26日には東京、大阪、福岡、愛知、山形、愛媛、茨城、栃木、埼玉、千葉などで全国一斉の移民反対デモが行われたというのがこの4カ月をざっと振り返っての流れである。
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さて、では世界はどうなのかといえば、残念ながらあらゆる国で排外主義が台頭している。
ドイツでは今年2月、連邦議会選挙で移民排斥を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第二党に躍進。
イギリスでは移民に厳しい姿勢を見せる「イギリス改革党」が支持率30%とトップに。
フランスでも極右政党「国民連合」が存在感を示し、イタリアではジョルジャ・メローニ政権が移民規制を進めている。
ちなみに「日本人ファースト」という言葉は「差別だ」「問題にする方が差別だ」と平行線が続いているが、世界を見渡せば、同様の主張をしている政党、政治家は少なくない。
トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」をはじめ、イギリスにはそのまんま「ブリテン・ファースト」という名の極右政党がある上、デンマーク国民党が掲げるのは「デンマーク人第一」。ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は「自国第一主義」を掲げ、移民排斥やLGBTQの権利を制限するような政策を打ち出している。また、反外国人や反ユダヤ主義を掲げる複数の極右集団を起源とするスウェーデン民主党も「スウェーデン人のための福祉国家の再建」を訴えて支持を伸ばしている。
一方、世界でも移民反対デモは開催されている。
8月31日にはオーストラリア各地で大規模な反移民デモが開催。極右集団が先住民の聖地を襲撃。
9月13日にはイギリス・ロンドンで反移民デモが開催。15万人が参加したと報じられる。そんなイギリスでは24年、殺人事件の犯人がイスラム系移民という誤情報が広まった果てに、難民申請者が宿泊するホテルが襲撃されるなど各地で暴動が発生、一連の事件での逮捕者数は1000人以上に及んだ。
そうして10月には、チェコでポピュリスト政党が第一党になったことが報じられた。アンドレイ・バビシュ党首は「チェコのトランプ」と呼ばれる人物だ。
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さて、トランプ氏が大統領に就任してから10カ月のアメリカも凄まじい。
長い時間をかけて人々が積み上げてきた民主主義や人権といったものをブルドーザーで引き潰していくようなことが次々と起きている。反DEIや移民排斥、LGBTQの否定や気候変動完全スルーと、一気に時代が逆戻りしているような様相だ。
具体的にはハーバード大学への助成金の停止や留学生の入国制限。またUSAID(アメリカ国際開発局)への予算・人員削減は、イラクなどで人道支援活動をする私の知人にも大きな衝撃を与えた。さまざまなNGOの支援がストップし、これまでの取り組みが泡と消えるような状況だという。
そんなアメリカでは、「不法移民」摘発に1日3000人というノルマが課せられていると報じられている。
9月4日、その網に日本人もひっかかるということが起きた。アメリカの韓国企業の工場で、不法就労の疑いで475人が拘束されたのだ。多くが韓国人だったが、日本人も3人含まれていた(ビザを持っていたにも関わらず)。拘束は1週間にわたり、9月12日、330人が無事帰国したものの、アメリカに住む外国人の緊張は高まっている。
9月10日、保守活動家のチャーリー・カーク氏が殺害される事件があってからは、トランプ大統領はさらに暴走。