末端の労働者なのに、発想は経営者。例えば自身が時給制で働いているのに、「時給を上げろ」なんてデモを見ると「バイトの時給なんか上げたら企業が潰れる」「バイトがその額に見合った働きなどしない」などと口にする。なぜそのようなことになるかと言えば、「自分がずっと労働者でい続けると思ってる人」=上昇志向がないダメ人間という価値観の社会で育ってきたからである。ロスジェネとそれより若い世代にとって、労働組合や労働運動なんかよりも、「いつか一発逆転すること」の方がずっとずっとリアリティがあるのだ。それがどれだけ夢物語だとしても。
そんな層にとって、成功した実業家であるひろゆき氏は一発逆転を体現している人である。特別な学歴や家柄やコネがなくとも、しかもコミュ障でも、経済的成功を勝ち取ったスターなのだ。
23年5月5日こどもの日、朝日新聞に、ひろゆキッズについての記事が掲載された。
西日本のある教諭は、ひろゆき氏の「それってあなたの感想ですよね」を真似る子どもに「そういう言い方は他の人に嫌われてしまうで」と伝えたという。
その指摘は正しくて、だけど根本的に間違っている。
なぜなら子どもたちは、人に嫌われることも厭わないひろゆき氏のスタンスこそに憧れていると思うからだ。
翻って周りを見れば、大人たちは常に空気を読み、「上」の顔色を窺い、いつも組織の中での立場や人間関係に汲々としている。子どもも例外ではない。教室の空気を読み、スクールカーストに見合った振る舞いをしないとたちまち地獄と化す窮屈な場所にいる。
「それってあなたの感想ですよね」は、そんな中にいながら、相手の発言を無意味・無価値にするささやかな意地悪なのかもしれない。そうやって相手の心を折ってスカッとすることが必要とされるほどに、子どもの社会も閉塞しているのだろう。
なんだか書けば書くほど、この国の息苦しさにため息が出てくる。
だけど、冷笑や一時のガス抜きでは乗り越えられないことも多くあることを、大人の一人として伝えていきたい。