森喜朗氏の「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」という発言が大炎上していた頃、私はあることを思い出していた。
それは数年前、飛行機で森氏と同乗した時のこと。ある野党の女性議員と一緒に地方講演に行く際のことで、彼女とともにビジネスクラス的な座席だったのだが、そこに偶然、森氏も乗り合わせていたのだった。
その日、私はミニスカートを穿いていた。そんな私を見るなり、一面識もない森氏はニヤニヤしながら「そ〜んな短いスカート穿いて」と言ったのだった。挨拶も何もなく、突然ニヤニヤしながらミニスカートに言及されるというのは、これまで「通りすがり系の変質者」的な人にしかされたことがなかったので面食らっていると、森氏は悪びれた様子もなく、同じ台詞を繰り返した。
その時、思った。「こういうの、久々に経験したな」と。人間としてではなく、ただ純粋に「女体」としてしか見られないという経験だ。しかもそのような台詞を口にする男性は、女性の服装を自分への「サービス」と思っているような節さえある。まったくもって一切全然、1ミリたりとも関係ないのに。
同時に、閃いた。もしかして、このような言動をするのは確信犯なのかもしれないと。私と一緒にいたのは、フェミニズムに造詣の深い野党の女性議員である。そういう人の前で連れの女性にそんな発言をしたということは、遠回しに「フェミニズムとか言ってる女どもがいるが、俺にはそんなこと関係ないぜ」というあえての「尊厳踏みにじり行為」なのかもしれない。しかし、そのわりには森氏はずーっとニヤニヤしている。
「この人、確信犯なのか本当に何も考えてないのか全然わからないな……」
世の中には、「深読みするだけ無駄」ということが多くあり、また「深読みしないほうがいい人」というのも存在する。
そんな騒動があった後、今度は別の自民党議員を巡ってもやもやすることがあった。それは「丸川珠代議員、国会にて人を小馬鹿にしたような爆笑」問題。
五輪担当大臣であり、男女共同参画担当大臣である丸川氏だが、彼女は選択的夫婦別姓に反対の立場。が、そんな自身の「丸川」という姓は旧姓で、そのように「通称」を使用することは実質的には夫婦別姓ではないのか? という突っ込みも多くある。自民党の女性議員には、彼女のように選択的夫婦別姓に反対しつつ、自身は旧姓を使っている人が多い。
そんな丸川氏の「爆笑」は、3月3日、福島みずほ議員からの質問の時間に起きた。
この日、福島議員は丸川氏に、「なぜ別姓に反対なのか教えてほしい」と追及。それに対し、丸川氏は「大臣として答弁に立っており、個人の意見を申し述べる場ではない」と回答を拒否。自民党議員が夫婦別姓に反対するのは「別姓は家族の一体感を無くす」などの理由が多いのだが、この日、福島議員は「家族の一体感、無いんですか?」と追及。すると丸川氏は突然「わざとらしい爆笑」をしたわけである。
ちなみに、選択的夫婦別姓に賛成する人は69%(「選択的夫婦別姓、賛成69% 50代以下の女性は8割超」、『朝日新聞』2020年1月27日)。私の周りにも、これまでの専門職としてのキャリアや業績が、名前が変わることによって途切れてしまうという悩みを抱える女性が少なくない。決して男女共同参画担当大臣が爆笑しながらはぐらかすような話ではないのだが、マトモな答弁はなされなかった。
本題に入ろう。
丸川議員が夫婦別姓に反対な理由はよくわからないが(本人が説明しないため)、自民党は「家族」が大好きな政党である。改憲草案 に「家族は、互いに助け合わなくてはならない」という一文が入っているのは有名な話だし、森氏も「家族」を形成しない女性には手厳しい。過去には「子どもを一人もつくらない女性」を以下のように非難した。
「自由を謳歌して楽しんで、年とって、税金で面倒を見なさいというのは本当はおかしい」
子どもを一人もつくらない女性の中には、欲しかったけどできなかった人もいれば、婦人科の病気を抱える人など様々な事情の人がいる。が、森氏にはすべて、「フリーダム!」と自由を謳歌している存在に見えるようだ。
このように、家族をもって一人前、とにかく家族が大事、という感覚は自民党に色濃く見られるものであるが、一方で違和感も抱く。自民党議員たちが本当に「家族を大事」にしているのか疑わしいからだ。なぜなら、そんな当人が子育てに専念したり、親の介護に奮闘しているという話を私はほぼ聞いたことがないからだ。
例えば16年、のちに不倫で有名になる宮崎謙介衆院議員(当時)は、男性議員として初めて育休を取ると宣言。女性たちからは「自民党議員が育休を取るなんて素晴らしい」と歓迎の声も上がったが、それに苦言を呈したのは自民党の先輩議員たちだったことは記憶に新しい。宮崎氏自身、当時、先輩議員から連日罵声を浴びせられるなど凄まじいパタハラ、パワハラを受けたことを語っている(小酒部さやか「自民党先輩議員たちからのパタハラ&パワハラが苦しかった。宮崎謙介元議員が今だから言えること」)。
なぜ、家族の大切さを主張する政党が、ここまで「男性議員が育休を取ること」に反対するのか?
では親は大切にしているのかというと、例えば積極的に親の介護をしているという自民党議員の話も耳にしたことはない。介護保険が導入された当時、自民党政調会長だった亀井静香氏(のちに国民新党)は「子どもが親の面倒を見るという美風を損なわない配慮が必要」と訴えたが、「子」が男性の場合、実際に介護をしているのは多くがその妻である。