裁判を左右するのは「人」
――裁判官の判断で思い出されるのが、浜松の袴田巌さんのことです。袴田さんは、強盗殺人事件の犯人とされて、潔白であったにもかかわらず、冤罪逮捕されて、しかも検察と警察が証拠まで捏造したことで苦しめられました。極刑が出されて獄中で精神も病まれてしまいました。やがて新しく事実が明るみになってきて誰がどう見ても無罪が見えてきた。さすがに酷いということで、最後に死刑判決のまま釈放されたじゃないですか。あれも裁判官の裁量ですね。
竹内 あの判断も普通はあり得ないんです。あの村山(浩昭裁判官)決定が、釈放についてどう書いてあるかというと、これは冤罪で再審を開始すべきだとしている。ただ、死刑判決は直ちに覆るわけじゃない。だから普通はそのまま拘置を続けなければならないけれども拘置をこれ以上続けるのは、「耐え難いほど正義に反する」と村山さんは書かれている。耐え難い、この言葉は裁判官の主観ですよ。感情論。耐え難いほど正義に反するので、ある意味超法規的に拘置を停止して釈放した。あれは、法理論としてはかなりアクロバット的で、「そんなことできるかい」という人も多いかもしれない。でも、社会的には、「それはそうだよね」と市民は思っている。極めてまれな判断ですが、あの釈放は正しいと思います。

2014年に釈放された袴田巌さん(左)と、姉のひで子さん。2024年には再審の結果、袴田さんの無罪が確定した。(写真:毎日新聞社/アフロ)
――いろいろな事が明るみに出て、世論は完全にいつまで袴田さんを拘束しているのだと沸騰していました。
竹内 そう。袴田さんの場合は再審公判の無罪判決が確定するまで待っていたら、刑務所の中でお亡くなりになっていたかもしれないし、そうでなくても、もっと精神状態も悪くなっていたと思います。村山裁判官は本当に良心的な方で、刑事裁判官では珍しい人でしたね。大体見てもらうと分かるけど、志賀原発を止めた裁判官(井戸謙一)とか、再審の道筋をつけた裁判官は、みんな良心的な人たちです。やはり人間が裁判の結論を左右しているんです。結局いい裁判官に運よく当たれば、いい判決、決定がもらえるし、運悪く裏目に出ると、とんでもないことになります。袴田さんが村山裁判官に当たったことは不幸中の幸いでした。違う人だったら、いまだに再審開始の決定はされていないと思います。下手したら死刑が執行されていたかもしれない。
――その意味では竹内さんが、弁護士任官裁判官として2004年に東京高裁に行かれていたのは、プロ野球選手会にとっては、大きな幸運だったということですね。
竹内 そうですね。東京高裁は保守派裁判官の牙城というイメージがあって、私もそう思っていましたけど、中に入るとそうでもないんです。いろんな人がいます。ただあまり期待されない裁判所になってしまっているのは、残念です。石田和外という全日本剣道連盟の会長もされた最高裁長官以来、裁判官は自民党政府に盾突くなという空気があってリベラル派、革新派の裁判官はパージされてきた。東京高裁もそう見られちゃっている。
誰が読んでもわかる判決文を
――竹内さんは、2024年には三重の津地裁の裁判長として、生活保護利用者が生活保護基準引き下げの処分取り消しを求めて、津など4市を訴えた「生存権裁判」(いのちのとりで裁判)を裁きました。このときは、過大な保護費の引き下げは生存権を脅かしかねないとして原告側の全面勝訴としました。これは、自民党が保護基準引き下げを2012年の総選挙公約としていたことを踏まえ、基準引き下げは「専門的知識を度外視する政治的判断であり、違法」だとし、文章では、厚労省が自民党の「選挙公約に忖度」したとしっかりと明記しました。この司法軽視の生活保護減額処分に自民党の選挙公約がからんだのは、明らかだったのですが、それにしても同様の裁判で、裁判官が誰も書かない中でかなり踏み込んでいましたね。
竹内 そう。ちょっとアンチテーゼで。他の裁判官の皆さんが心の中に思っていることをあまりにも書かなすぎるから。理屈で判断しているように見せかけて、なるべく自民党の批判をしないというのも裁判官のあり方としては、あると思うんだけど、他に全国で30件出ている生存権裁判の判決でも誰もその点を指摘しないので、それはどうかと思って出しました。皆、わざとそのことから目をそらしているんだけど、そうすると判決がすごい難しくなるんですよ。生活保護の問題、つまりは生存権の関わりについては国民的な広がりのある問題なので、誰でも読める判決文にすべきだと思っていました。なんなら新聞紙上に判決全文載せてもらったときに、「ああ、これは読めるな」とみんなが読んでくれるようなものにしたかった。
だから、分かりやすい言葉で書くこと。そして、問題点を端的に指摘することに目を背けない。なんでこうなったのか。それは自民党の人たち、高市早苗さんも含みますが、生活保護バッシングに便乗して自民党が選挙に勝っちゃったからこうなったんですよ、そんなことでいいんですか、ということを書いて問題提起したほうがいいと思ったので、踏み込んで書いたんです。
――井上ひさしみたいですね。
竹内 そうそう。井上ひさしの言葉「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」。だから、難しいことを分かりやすく、面白く。それは私、裁判所の中でも言っていました。井上ひさし流、読みやすい判決ね。ストンと落ちるやつ。
――裁判官は世間知らず、社会性がないという批判がありますが、竹内さんは都都逸(どどいつ)もたしなむし、笑いも好きですね。今、芸人では誰が好きですか。
竹内 単独ライブとかやったら見るのがナイツ。あと、ピンだとバカリズム。
――かまいたちは? 濱家君は過日のイベントでご一緒した久保敬(元・木川南小学校校長。詳しくはこちら)の教え子です。
竹内 かまいたち、妻がファンです。私も彼らの笑いは斬新だと思います。M-1は1回目から全部見ていますし、R-1は、世に知られてなかった頃、なんばグランド花月で見てます。たまたま大阪へ出張で行ったんです。2000年前後だと思うんだけど、大阪来たから吉本見に行こうかって、なんばグランド花月に行ったら、「今夜はいつもの出し物じゃなくて特別な大会をやってます」って、それで入りました。
――2026年1月の山上徹也被告の判決(無期懲役)についてはどう思いますか?
竹内 私は無期懲役は重いという意見ですが、山上判決は6人の裁判員が入っていて、意見の大勢がそうだったんでしょうね。仮に懲役20年でいいじゃないかという人が5人以上いれば、その結論になったはずです。したがってあの判決は、一般国民たる裁判員を含めて無期懲役という結論を出したと言わざるを得ないですね。大それたことをやったんだから、無期懲役で仕方ないねと流されたかもしれない。
―― 一国の元総理を撃ったということであれば、これはテロですけども、統一教会の宗教2世としての背景があった。