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安英学にマラのことを訊いてみた。
「僕が見ていてもマラ君は、地に足がついてます。志が高いんですよ。普通、プロになったら、しかもそれがJ1だったら、そこがゴールみたいな感じで浮ついちゃう選手もいるんです。
でも彼は決して慢心していない。その先をしっかりと見ています。何よりそのがんばる理由というのが、海外にルーツのある子たちの憧れになりたいという軸がしっかりしているのでぶれない。僕も在日の子どもたちに対してそういう思いでやってきたので、だからこそ苦しいときに踏ん張れました。背負っていたからこそ、逆境が来ても、あわてずに『おっ、来たな』と思えるような準備をしていました。もしも自分が有名になることだけ考えていたら、続かなかっただろうし、お金を稼いで、いい車に乗りたいというような気持ちだけだったら、どこかでくじけたと思うんです。きっとマラ君は夢をかなえるだろうなと思っています」
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日本国籍取得の方は、9月末に法務局に必要書類を提出した。あとは面談をこなしていくだけである。マラは夢に向かって歩み続ける。
マラは最後に、FC町田ゼルビアの天皇杯優勝を踏まえてこんなメッセージを送ってくれた。
「サッカー人生の中で全国規模の大会をクラブの一員として優勝することは初めてでした。
カップを掲げた時の景色、サポーターの方々の歓喜の表情を見た瞬間、プロとしてこの記憶をこれから胸に刻んでプレーしなくてはならないと思いました。
この結果で今年1年間の自分の取り組みが少し報われたような気がしました。
それと同時に自分が活躍して優勝したい、この瞬間を何度でも味わいたいという気持ちも強くなりました。
今回はピッチには立つことは出来なかったですけど、自分の置かれた場所でまず成長しよう、何度でも挑戦してやろうという気持ちにあらためてなりました。
残りシーズン僅かですが、最後の最後まで自分らしく努力を続けて結果を残せるように準備します!」
(*1)
チョーディン=大正時代、イギリス統治下のビルマ(現・ミャンマー)から来日したラカイン族(ミャンマー西部・ラカイン州の仏教徒のこと)の留学生。東京高等工業学校(現・東京工業大学)に在籍し、日本の学生に本格的なパスサッカーを教えた功績が認められ、2007年に日本サッカー殿堂入りしている。
(*2)
2種登録=Jリーグクラブの第2種チーム(通常18歳以下の選手で構成されるユースチーム)に所属する選手が、同じ所属先のトップチーム(第1種チーム)の公式戦に出場できるようにするための登録制度。