景気も天気と同じだ。好景気という晴れの日と、不景気という雨の日が繰り返されてきた。これが「景気循環」である。
景気循環にはその周期によって、四つの種類が確認されている。最も短いものが、約40カ月の周期を持つ「キチン波」。企業の在庫投資の増減が生み出すと考えられ、「短期波動」と呼ばれることもある。約10年の周期を持つのが「ジュグラー波」で、設備投資が生み出すもの。約20年の周期を持つ「クズネッツ波」は、建築物に対する需要が生み出すと考えられている。
キチン波、ジュグラー波、クズネッツ波のいずれもが、発見した経済学者の名前を冠したものだが、残るもう一つの景気循環、「コンドラチェフ波」も同じ。旧ソ連の経済学者ニコライ・コンドラチェフが長年の研究の末に発見したものだ。
コンドラチェフ波は、約50年を周期とする景気循環で、技術開発などがもたらすとされている。これまでは、蒸気機関や紡績、鉄道や自動車などの革新的な技術開発によって、大きな景気の波がもたらされるという理論だ。
ところが、この発見をしたことで、コンドラチェフは悲劇的な人生を歩む。好景気と不景気が繰り返されるという景気循環理論は、「資本主義はやがて没落する」というマルクス・レーニン思想に相反していた。景気が循環していては、いつまでたっても資本主義は没落しないからだ。スターリンによって、「危険分子」と見なされたコンドラチェフは逮捕され、1938年に処刑されてしまう。
「景気循環」か「資本主義の没落」か。どちらが正しかったかは、歴史が証明することとなった。世界経済は今、コンピューターやIT技術による新たな波動に入ったとされ、そのピークは2040年ごろとも予想されている。一方で、コンドラチェフを抹殺した「マルクス・レーニン思想」は、表舞台から完全に消え去り、ソビエト政権が崩壊して久しい。
1980年代後半、永遠に続くと思われた好景気はバブル崩壊で終わりを告げた。そして、次にやってきたデフレ不況では、「日本経済は二度と立ち直れない」といった悲観論が広がったが、10年以上という長い時間がかかったものの、何とか抜け出すことができた。天気と同じく、好景気が果てしなく続くことも、ずっと不景気が続くこともない。やまない雨も、終わらない晴れも存在しないのだ。
「それでも景気は動いている」と、コンドラチェフが語ったかどうかは定かではない。しかし、景気循環の理論の通り、日本、そして世界経済は、好景気と不景気を繰り返しているのである。