低迷を続ける日本経済も「インバウンド」という名前の「助っ人外国人選手」に期待を寄せている。「外から中に入ってくる」という意味のインバウンドは、元々は来日した外国人を示す言葉として、旅行業界を中心に使われていた。インバウンドがより広い意味で使われるようになったのは、来日する外国人、とりわけ中国人による「爆買い」がきっかけだった。急速な経済発展などによって、この数年で急増した中国人旅行者は、日本製品を大量に買い付け、景気浮揚効果を生むようになる。たとえば2014年の訪日中国人旅行者は約241万人、1人あたりの旅行消費額は23万1753円にのぼった。こうした外国人旅行者の需要もインバウンドと呼ばれるようになり、低迷が続く日本経済の助っ人外国人選手として期待されるようになったのだ。
インバウンドは、経済統計上どこに現れるのだろうか? 中国人が家電量販店や百貨店などに殺到していることから、消費を押し上げると思われがちだがこれは誤りだ。インバウンドは消費ではなく、国際収支の中の「旅行収支」の項目に計上されている。
14年度の旅行収支は、前年度の5304億円の赤字から、一気に2099億円の黒字となった。旅行収支の黒字はなんと55年ぶり。日本を訪れた外国人が過去最多の1467万人に上り、インバウンドが大きく伸びたことが旅行収支を黒字化させて、景気にプラスに働いたというわけだ。
旅行収支が黒字に転換したのは、インバウンドの増加だけではなく、「アウトバウンド」の減少も寄与している。アウトバウンドは日本人の海外旅行での支出で、景気にはマイナスに作用する。アウトバウンドは、14年半ば以降の円安の進行などで減少、これがインバウンドの増加と相まって旅行収支を改善させて景気浮揚効果をもたらしている。助っ人外国人選手の活躍に加えて、海外に移籍する選手が減ったことで、日本経済という野球チームの戦力が向上しているわけなのだ。
企業はもちろん、政府や地方自治体も、インバウンドを拡大させようと、消費税免税制度の拡充や、豪華客船の誘致など、様々な戦略を展開している。優秀な助っ人外国人選手をスカウトしようとしているが、過度なインバウンド依存は危険だ。
日本経済が大きな期待を寄せてきた中国からの助っ人外国人選手だったが、その活躍に陰りが見え始めた。中国経済の減速が鮮明となり、15年半ばからは株式市場も下落を続けていることから、中国人の爆買いも影響を受け始めている。ホームランを打ちまくっていた中国人打者は、「チャンスに空振り、三振!」するなど、成績が落ちているのである。
低迷を続ける日本経済の救世主のように見えるインバウンドだが、これだけでは本格的な景気回復は望めない。消費や設備投資など、主力選手の奮起があってこそ、助っ人外国人選手も力を発揮することを忘れてはならないのである。