しかし、「鳩居堂前」の地価が全国で最も高いかというと、必ずしもそうではない。鳩居堂がトップになっているのは「路線価」においてのこと。「公示地価」における最高額は、銀座4丁目の「山野楽器銀座本店」の3060万円で、同じ銀座でも5丁目の「鳩居堂前」とは、価格も大きく異なっている。
実は土地の価格には、「公示地価」の他に、「路線価」と「基準地価」があり、さらに「固定資産税路線価」という調査もある。「一物四価」という複雑な状況になっているのが、地価なのである。
公示地価は、地価公示法に基づいて国土交通省が公表する地価で、1月1日時点の全国3万地点(07年)の地価を調査し、3月の下旬に発表している。公共事業の用地取得の際の基準になるほか、一般の土地取引でも参考にされている。
路線価を調査・公表するのは国税庁である。公示地価と同じく毎年1月1日時点での調査が行われるが、41万地点と調査対象が多いことから、発表は8月と遅くなっている。正式名称は相続税路線価で、その名の通り相続税や贈与税を算出する際に使われる。このため、その価格は公示地価の8割程度とされている。07年の路線価トップの鳩居堂前の2496万円と、公示地価トップの山野楽器の3060万円の違いの理由がここにあるのだ。
一方、基準地価は都道府県の調査を国土交通省がとりまとめるもので、7月1日時点の地価が9月下旬に公表される。基準地価における07年のトップは「明治屋銀座ビル」で、1m当たり2530万円だった。
国土交通省、国税庁に都道府県とそれぞれが大規模な地価調査を行っているが、彼らは調査をするのみで、地価をコントロールする具体的な政策を打ち出すことはしない。地価も物価の一つであることから、「物価の番人」である日本銀行が責任を持っているかというと、そうでもない。
日銀は消費者物価指数が0.5%でも変動すれば、金融政策を変更するなど、機敏に対応する。消費者物価指数を部屋の温度計と考えると、暑くなり過ぎたり、寒くなり過ぎたりしないように、金融政策という「エアコン」を調整するのである。
ところが、同じ物価でも地価については、日銀はほとんど無視してしまう。部屋の床が地価上昇でフライパンのように熱くなっても、急激に冷たくなって氷が張っても、基本的には知らん顔。地価については、基本的に野放しであり、これが、1980年代後半の「土地バブル」を放置し、その後のバブル崩壊による地価の暴落をもたらしたと指摘されているのである。
2007年に入って、地価という「床の温度計」は明らかな上昇を見せている。中でも三大都市圏での上昇は大きく、「バブルの再来」を指摘する声も出始めた。
しかし、床の温度計がどんなに異常な動きを示しても、誰も対策を打ち出さないのが、相変わらずの実態。1980年代後半に経験した「床温度の上昇」で、国民全体が大混乱に陥る危険性が徐々に高まっているのである。