選手層の厚さは経済でも重要な要素となる。経済における選手層の厚さを示すのが「労働力人口」で、15歳以上の人口のうち「就業者」と求職活動はしているが仕事のない「完全失業者」を合わせたもの。テニスサークルの例でいえば、試合に出ている人と控え選手を加えたもので、仕事(テニス)をする意思を持っているのが労働力人口となる。
一方、働く意思のない人を合計したものが「非労働力人口」。学生や専業主婦、退職後の高齢者などに加えて、病気や障害などで働けない人、さらには、働く能力はあっても働かずに遊んでいる人も含まれる。テニスサークルをやめてしまった元部員や引退した上級生、加えてサークルに入ってはいるものの、ラケットを握ろうとしないのが非労働力人口というわけだ。
労働力人口は、国の経済力を左右する要因だ。労働力人口が多いほど経済規模は拡大するし、個人間の競争が促進される結果、技術革新や生産の効率化なども期待される。選手層が厚ければ、「控え選手」を含めた全員が切磋琢磨(せっさたくま)するので、テニスサークルはより強くなれるというわけだ。一方、労働力人口が不足すると経済活動の縮小や競争力低下を引き起こし、選手層の薄いテニスサークルのように弱体化していく。
2013年の日本の労働力人口は6577万人、1998年の6793万人をピークに減少へ転じている。最大の原因は少子高齢化。内閣府は、現状が続けば2060年の労働力人口は3795万人と、現在より42%減るという危機的な予想を立てている。
労働力人口が減少を続ける日本とは対照的に、中国を始めとした新興国では労働力人口が急拡大、これをテコに経済発展が続いている。世界第2位の経済大国の座を中国に奪われてしまった日本だが、その背景には労働力人口の低下があることは明白。日本というテニスサークルは、選手層の厚い国々に押され、劣勢に立たされているのだ。
減少を続ける日本の労働力人口、そこで期待されているのが女性と高齢者だ。結婚を契機に専業主婦となり、多くの女性が労働力人口から非労働力人口に移っている。彼女たちが再び就業することで、労働力人口を増やすことができる。また、定年延長などによって、高齢者が非労働力人口に移ることを遅らせようという試みも活発になっている。テニスをやめてしまった部員に声をかけたり、上級生に引退を思いとどまらせたりしているわけだ。しかし、少子化を食い止め、新しい部員を誕生させない限り、根本的な解決にはつながらないことは言うまでもない。
大学時代、テニスサークルの選手層の薄さに苦しんでいた同級生は、他の大学から部員をスカウトするという、いわば「移民」で危機を乗り越えたが、日本の場合には抵抗が大きいだろう。選手層の薄さをいかに補い、世界経済という戦いの場で勝利するのか? 労働力人口の拡大は、日本が取り組むべき重要な課題なのである。