「労働生産性」は、労働者が一定期間にどれだけのモノやサービスを生み出しているかを示す指数で、GDP(国内総生産)を労働者数や労働時間で割ったものが一般的だ。労働生産性が上昇すれば、より効果的に経済成長率を高めることが可能となる一方で、その低下は経済成長の足かせとなる恐れがある。野球の打率に相当するのが労働生産性であり、高ければ高いほど「安打」という生産物が多く生み出され、国家というチームの勝利に貢献できる。
誰もが認める勤勉な日本の労働者だが、その労働生産性は意外なほど低い。日本生産性本部が算出した14年の日本の労働生産性(GDP÷就業者数)は7万2994ドルで、OECD加盟34カ国の21位にとどまっている。トップはルクセンブルク、これにノルウェー、アイルランドが続き、4位がアメリカだ。ルクセンブルクは経済規模こそ小さいものの、主力産業の鉄鋼業に加えて、ヨーロッパ有数の金融センターをもち、法人税率を低く抑えることで、多くのグローバル企業の誘致に成功している。ホームランは狙わずに、着実にヒットを重ねることで打率を上げる全盛期のイチロー選手のような国なのだ。一方、世界一の経済規模を持つアメリカは、ホームランを量産する上に打率も高い強打者というわけだ。
日本の労働生産性は、深刻な経済危機にあるスペイン(15位)やギリシャ(19位)よりも低いのだが、そこにはからくりがある。スペインもギリシャも失業率が25%前後に達していて、就業者数が少ないため、結果的に労働生産性が高くなっている。打席に立てるのは、力のある限られた選手だけで、大部分はベンチで控えている…というのが実態であり、労働生産性だけで全てを判断することはできない。しかし、労働生産性の向上は、技術革新や需要の拡大をもたらすことは間違いなく、経済成長の必須条件となっている。
高い教育水準や勤勉な性格など、「好打者」としての要素を兼ね備えている日本人労働者の打率が低迷している理由として、硬直的な給与体系や人材配置、長時間労働などが指摘されている。こうした問題を解決するには、構造改革という打撃フォームの変更が必要で、思うに任せないのが実情だ。
労働生産性の低下は、日本に限ったものではない。中国やインドでも労働生産性の低下に直面していて、経済が回復基調にあるアメリカでも同様の懸念が広がっている。こうした状況にフィナンシャルタイムズも「世界を襲う生産性危機」という特集記事を掲載して、警鐘を鳴らしている。
16年のイチロー選手は、前年の不振を振り払うかのように好調だが、その裏には計り知れない努力が秘められているに違いない。労働生産性を引き上げる努力が、日本のみならず、世界各国に求められているのである。