経済指標の中にもAKB48のような存在がある。「S&Pケース・シラー住宅価格指数(ケース・シラー指数)」だ。アメリカの住宅価格の動向を探る目的で、カール・ケースとロバート・シラーの2人の経済学者が開発したもので、格付け会社のスタンダード&プアーズ(S&P)社が算出している。住宅売買の実績を集計、2000年1月のデータを100として指数化されていて、対象地域や発表時期の異なるものが数種類あるが、四半期ごとに発表される「全米住宅価格指数」と、毎月発表されるニューヨークやボストンなどの「20大都市圏住宅価格指数」が特に注目されている。
1980年代に開発されたケース・シラー住宅価格指数だが、最近まで注目されることはなかった。脚光を浴びるきっかけとなったのが、アメリカの住宅バブルの崩壊とサブプライムローン問題だった。上昇を続けていた住宅価格が、2007年頃から下落に転じると、住宅価格の上昇を前提としていたサブプライムローンの破綻が急増、これが金融機関の経営を直撃し「リーマン・ショック」を引き起こす。
深刻な景気後退に見舞われたアメリカ経済、その回復には、住宅価格の回復が不可欠との認識が広がり、ケース・シラー住宅価格指数に注目が集まるようになった。もし、指数が上昇すれば景気回復の期待が高まり、株式やドル相場が上昇、反対に下落してしまうと、景気回復は遠のくとの思惑から、株価もドル相場も下落するようになった。住宅バブル崩壊とサブプライムローン問題が、ケース・シラー住宅価格指数を、「下積み生活」から、トップアイドルに押し上げたというわけだ。
経済指標にはその時々の経済情勢に応じて、注目される「スター」が現れている。1980年代前半は、アメリカの金融政策が最大の関心事であり、それを占う「マネーサプライ」(貨幣供給量)の動向が金融市場を振り回していた。80年代半ば以降の円高局面では、「貿易収支」が大スターだった。アメリカの貿易赤字が円高・ドル安の主因となっていたためで、その発表の度に為替相場が乱高下していたのだ。
しかし、経済情勢の変化とともにその影響力は低下、現在ではマネーサプライも貿易収支も、市場への影響は限られたものとなっている。さまざまなアイドルたちが一世を風靡(ふうび)しては去っていったように、経済指標にも「流行」があるのである。
その一方で、「GDP(国内総生産)」や「失業率」といった注目を浴び続ける経済指標もある。これらは経済指標の中でも普遍的な重要性を持つもので、「流行」に左右されることはない。新進のアイドルとは比較にならない影響力を持ち続ける「大御所」といえるだろう。
ケース・シラー住宅価格指数はアメリカのみならず、世界中のトレーダー達から熱い視線を集めるトップアイドルだが、住宅価格が安定し、アメリカの景気が回復すれば、その注目度も下がって行くだろう。次のスターは誰なのか? ユーロ危機が深刻化する中、イタリアやスペインの国債金利などが、その候補なのかもしれない。