外国為替相場も基本的に同じ原理で決まる。ドル・円相場の場合、ドルから円に交換しようとする「円チーム」と、反対に円からドルに交換しようとする「ドルチーム」が、一本の綱を引き合う。綱の中央部に付けられた目印が為替相場となり、「円チーム」の力が強ければ、目印は円の側に引き込まれて円高・ドル安、「ドルチーム」の力が強ければ、目印はドルの側に引き込まれてドル高・円安となる。
政府や中央銀行といった「通貨当局」は、審判役として外国為替取引という綱引きを監視している。ところが、その審判が突然綱引きに参加してくることがある。「市場介入」だ。
外国為替相場は、「ドルチーム」と「円チーム」の綱引きの結果で決まる。したがって、時には勝負が一方的な展開、つまり、猛烈な円高・ドル安になったり、円安・ドル高になったりすることがある。それがあまりに急激な場合、経済が混乱する恐れが出てくるため、審判役である通貨当局自らが、綱引きに「参戦」してくるのだ。
「ドルチーム」が弱く、大きく円高・ドル安になっている場合、通貨当局が自らドルを買って円を売るという取引を行う。「ドルチーム」の一員となるわけだ。反対に円安・ドル高を食い止める場合には、「円チーム」に入って、円を買ってドルを売る。これが「市場介入」なのだ。
日本の場合、市場介入の決定権は財務大臣にある。実際のオペレーションとしては、財務省国際局の為替市場課から日本銀行に介入の指示が出される。これを受けた日銀の担当者が、外国為替取引を行っている銀行のディーリングルームとのホットラインを通じて、「日銀だ。1億ドルを買ってくれ!」と、介入を行うのだ。
実際のオペレーションを日銀が行うことから、「日銀が市場介入!」と伝えられることもあるが、介入の主導権は財務省にあり、日銀はその意を受けているに過ぎない。
外国為替市場は24時間、世界のどこかで取引が行われている。そこで、場合によってはロンドンやニューヨークの市場で市場介入が行われることもある。日銀が各国の中央銀行に介入を依頼するもので、「委託介入」と呼ばれている。
審判役である通貨当局が、綱引きという外国為替取引に参入する市場介入。しかし、市場のエネルギーがあまりに強いと、全く歯が立たないことも多い。
外国為替取引の参加者の中には、巨額の資金を動かす「投機筋」と呼ばれるグループがあり、その人並みはずれた腕力で、綱引きの戦況が大きく変わることも多い。投機筋が「ドルチーム」に入ったことで、ドル高・円安になったのを見た通貨当局が、「俺が助ける!」と「円チーム」に入ったものの役に立たず、面目丸つぶれということも少なくないのだ。
外国為替相場は、世界中の人々が参加する巨大な綱引きの結果で決まる。その中にあって、「市場介入」の力は絶対的ではない。「市場介入」は、外国為替相場の流れを変えるのではなく、度を超えた変動を抑制し、綱引きが一方的になって、倒れてけがをする人が出ないようにするのが精一杯なのである。