年末年始やゴールデンウイークが近づくと、外国為替ディーラーたちが気にする情報だ。海外旅行に出かける際には、円をドルなどの外貨に両替する必要がある。通貨を商品と考えれば、両替は円を売ってドルを購入することに他ならない。したがって、海外旅行者が増えれば、ドルの価格を押し上げ、円の価格を下落させる要因となることから、外国為替ディーラーにとっては重要な情報となるのだ。
外国為替市場(外為市場)で行われているのは、大規模な両替だ。海外旅行をする際に両替が必要なように、異なった通貨が流通している国の間で何らかの取引が行われる場合は、両替が行われる。
日本の自動車メーカーがアメリカに輸出した場合、ドルで受け取った代金は円に両替される。一方、石油会社が原油を輸入する場合には、ドルで支払いをすることから、円からドルへの両替が行われる。したがって、輸出が増えれば円への両替が増えて円高に、反対に輸入が増えれば円安となるわけだ。また、海外の株式や債券の売買、国境を越えた企業買収でも両替が発生し、その動向が円相場を左右することになる。松坂大輔投手のボストン・レッドソックスへの移籍に伴って支払われた5111万ドルの移籍金も、外国為替市場でドルから円に両替されるため、円高の要因になると、ディーラーたちは注目をしていたのだ。
小さな旅行のためのお金から、貿易や投資などの大規模な取引に至るまで、国境を越え、異なる通貨の両替を必要とする取引が集約されているのが、外国為替市場なのである。
外国為替市場は、株式市場のような特定の取引所を持っていない。銀行などの金融機関が、電話や通信回線などを使って、円を売ってドルを買ったり、ユーロを買って円を売るという取引が行われている。かつては、テレビにもしばしば登場したブローカー(仲介会社)が、大声を上げながら銀行などからの注文を取り次いでいたが、近年は通信回線を使ったコンピューター取引が主流となっている。
特定の取引所がなく、明確な取引時間も決められていないことから、各国の外国為替市場は混然一体となっている。
毎週月曜日、まずニュージーランドのウェリントンとオーストラリアのシドニーの金融機関を中心とした取引がスタート、そこに早起きの東京市場のディーラーたちが参加してくる。東京市場での取引には、同じ時間帯に開いている香港やシンガポールなどのアジア市場からひっきりなしに取引が持ち込まれ、東京市場が午後3時以降になると、今度は早起きのロンドン市場のディーラーたちが参戦、ロンドン市場の午後にはニューヨークのディーラーが、やがて早起きのロサンゼルスのディーラーたちも参入してくる。そして、ロサンゼルス市場の午後には、早起きしたシドニーのディーラーが参戦といった具合に、外国為替市場は国境も取引時間もなく、24時間眠ることのない市場となっているのだ。
「1000万ドルを115円15銭で売った!」外国為替のディーラーたちが叫ぶ。これは1000万ドルを、1ドル115円15銭で日本円に両替したということに他ならない。
たかが両替、されど両替…。外国為替市場で展開されているのは、世界経済全体を巻き込んだ、巨大な両替であり、時々刻々変化する為替相場は、企業の業績、そして国の景気そのものをも動かす力を持っているのである。