ジャージー島は、自治権はあるものの、イギリス王室に帰属する小さな島だ。ジャージー牛という乳牛の原産地で、かつては漁業と農業が主要な産業だった。しかし現在は大きく状況が異なり、GDP(国内総生産)の半分以上を金融業が占める「金融立国」となっている。ジャージー島が「タックス・ヘイブン」となったことが、その理由だ。
「タックス・ヘイブン」とは、税金(tax)を回避する(haven)という意味だ。利子や配当に対する税金、法人税や所得税などが大幅に軽減され、場合によってはゼロに設定されている国や地域のことで、「租税回避地」と訳されている。
OECD(経済協力開発機構)が認定しているタックス・ヘイブンのリストを見ると、バハマ、バージン諸島、クック諸島と、島々からなる国や地域がずらりと並ぶ。
これらの島国では、産業が育ちにくいことから、貿易船の中継地として活路を見いだそうとしていた。そのために、税金を下げて船会社や物流会社を誘致しようとしていたが、次第に金融業に軸足が移る。そして、低い税率を活用した金融ビジネスの拠点として発展することとなったのだ。
英語で「沖合いに」を意味するoff shoreから「オフショア金融センター」、あるいは略して「オフショア」とも呼ばれるタックス・ヘイブンは、島国だけではなく、スイスやリヒテンシュタイン、モナコといった、大陸にある「小国」でも行われるようになった。
タックス・ヘイブンには、低い税率を狙って、世界中から多くの資金が集まり、企業の設立も相次いだ。また、一部の個人なども、税金対策の一環としてタックス・ヘイブンを利用するようになった。これが、タックス・ヘイブンの国々に大きな収入をもたらすことになったのだ。
しかし、タックス・ヘイブンが大きな問題を引き起こしているのも事実だ。タックス・ヘイブンを利用されることで、各国の税収は減少してしまう。また、顧客情報を公開しないなどの措置をとっていることから、暴力団やマフィア、さらにはテロ集団といった「闇の資金」の受け皿となる「マネーロンダリング」の温床になっているとも指摘されているのだ。
税率はその国の政府が自由に決めることができるものであり、タックス・ヘイブン自体は決して違法ではない。しかし、その利用法が本来の目的を逸脱する場合が増えているために、問題視されるようになった。タックス・ヘイブンは、しばしばタックス・ヘブン(tax heaven 税金天国)と間違われることがある。しかし、実際に税金を逃れる「天国」になっているのも事実なのだ。
こうしたことから、各国政府はタックス・ヘイブンを利用した取引の規制強化に乗り出している。2009年5月には、アメリカのオバマ大統領も、アメリカの多国籍企業がタックス・ヘイブンを利用して行っている租税回避措置の一部を違法化するなど、具体的な動きを見せている。
「税金天国」という悪いイメージを払拭(ふっしょく)するために、意図的に「オフショア」という呼び名を使い、マネーロンダリングなどには厳しい姿勢を見せ始めているタックス・ヘイブンの国々。
世界各地に点在するタックス・ヘイブンをいかに規制し、モラルを維持するかは、世界経済の大きな課題なのである。