外国為替取引を、円を必要とする「円チーム」と、ドルを必要とする「ドルチーム」による綱引きと考えよう。通貨当局は勝負を見守る審判だが、「ドルチーム」の力が衰えて急激なドル安・円高になった場合、これを食い止めようと通貨当局がドルを買って円を売る、つまり、審判が「ドルチーム」に入って綱を引くのが市場介入なのだ。
通常、こうした取引はそれぞれの国の通貨当局が独自に行う。しかし、外国為替市場は巨大であり、一国の市場介入だけでは限界がある。そこで、他の国の通貨当局の協力を仰ぎ、一緒に市場介入を行う場合がある。これが「協調介入」だ。
急激なドル安・円高が進んだ場合、日本の通貨当局のみならず、アメリカの通貨当局も市場介入を行えば、効果は倍増することになる。また、外国為替市場は24時間、世界のどこかで取引が行われている。したがって、東京市場で日本の通貨当局が介入しても、ロンドンやニューヨークの市場では手が届きにくい。協調介入の合意があれば、ロンドン市場ではイギリスの通貨当局が、ニューヨーク市場ではアメリカの通貨当局が、それぞれ独自に介入をしてくれることから、万全の体制を組むことができるわけだ。
協調介入が最も効果を上げたのが、1985年の「プラザ合意」に基づく協調介入だ。日、米、独、仏、英の5カ国(G5)が一致団結してドル売りを行ったこの協調介入によって、ドル・円相場は1ドル235円からわずか1日で20円も円高・ドル安となり、1年後には120円を付けるに至ったのである。
しかし、協調介入の合意を取り付けるのは容易ではない。各国の通貨政策にはそれぞれの思惑があり、利害がしばしば対立する。日本にとって急激な円高・ドル安は、輸出企業にダメージを与えることからなるべく避けたい。ところが、アメリカの輸出企業にとっては、円高・ドル安になった方が有利となるため、アメリカの通貨当局は市場介入に慎重になることが少なくない。
こうしたことから、日本が過去に幾度か実施した円高を食い止めるための市場介入では、アメリカを始めとした各国の協調をなかなか得られず、一国だけの孤独な介入を強いられたケースがしばしば見られた。円とドルとの綱引きで、どんどん引きずられて行く「ドルチーム」に日本が入って、何とか円高・ドル安を食い止めようとしているのに、肝心のアメリカは知らん顔、自国通貨が負けて行くのを眺めていたのだった。
「ドルが負けそうだから、みんなで助けよう!」。こんな呼びかけに、各国の通貨当局が応じるかどうか…。それぞれの思惑が複雑に絡み合う中、「協調介入」の合意が得られにくくなっているのが実情なのである。