ユーロ圏にも同じような救助隊が結成された。2012年10月に発足した「欧州安定メカニズム」(ESM)だ。ユーロ圏の加盟国の財政が悪化、借金が返せなくなる債務不履行(デフォルト)の危機に陥った場合、緊急融資を行って救済を図るのが役割だ。
ユーロ圏各国の経済は、単一通貨ユーロによって一体的に運営されている。ユーロという「ザイル」で結ばれた「登山隊」がユーロ圏であり、加盟国の中で一カ国でも財政危機で身動きが取れなくなると、登山隊全体が動けなくなって遭難する恐れがある。そこで、強力な救助隊の結成が必要となった。
欧州安定メカニズムの融資枠は5000億ユーロ(約50兆円)で、加盟国の共同出資で運営され、要請に基づいて融資を実行、債務不履行を回避させる。欧州安定メカニズムは、ユーロ圏という登山チームが共同で運営する救助隊であり、要請があれば即座に出動し、登山チームを遭難の危機から救おうとするわけだ。
欧州安定メカニズムが誕生するきっかけとなったのが、ユーロ加盟国の一つであるギリシャの債務危機だった。放漫財政の結果、財政赤字という大きな荷物を背負い込み、「もう歩けません…」と、しゃがみ込んでしまったギリシャ。ユーロ圏各国は急きょ、「欧州金融安定基金」(EFSF ; European Financial Stability Facility)という救助隊を組織し、ギリシャの債務不履行を回避させた。
しかし、欧州金融安定基金は融資可能額が不十分な上に、13年までの期限付きという臨時に組織された救助隊に過ぎなかった。こうした中、スペインやイタリアなどでも債務不履行の可能性が浮上、遭難者がさらに増える恐れがでてきたことから、より強力な救助隊を常駐させる必要に迫られた。そして誕生したのが、欧州安定メカニズムだったのだ。
しかし、欧州安定メカニズムに対しては、ドイツを中心に根強い批判がある。欧州安定メカニズムの財源はユーロ加盟国が分担するが、とりわけドイツの負担額が大きかった。他の国を救うために、自国の国民から集めた税金が使われることになる上に、援助するのはギリシャのような放漫財政を続けてきた国。無謀な登山者を救うために、自らがお金を出して救助隊を組織、揚げ句の果てに遭難者が何も負担しないというのでは、納得できないのも当然だろう。
ユーロ圏全体を救うためにはやむを得ないとの判断から、ドイツも欧州安定メカニズムに賛同、ようやく新たな救助隊が結成された。しかし、ユーロ圏各国の財政事情は悪化を続け、現在の欧州安定メカニズムの融資能力では足りないとの指摘もある。続出する遭難者を救出しきれるのか? 欧州安定メカニズムの真価が問われるのはこれからだ。