登山者をつなぐザイルと同じ役割を果たしているのが「ユーロ」だ。競争が激化する世界経済にあって、規模で劣る欧州各国は、起死回生の策として経済統合に踏み切った。各国が独自に行動するのではなく、「登山パーティー」を結成して一心同体になれれば、競争力も高まるというわけだ。そして、経済を一体化させるザイルとして誕生したのが、統一通貨のユーロだった。
ドイツでもフランスでも通貨はユーロ、同じ国内にいるかのように自由に買い物ができ、貿易決済もユーロが原則となった。欧州経済は劇的に変化、経済規模は拡大し、効率も向上して行った。
1999年、11カ国で導入されたユーロは、2011年には23カ国に広がった。ユーロというザイルで結ばれた登山パーティーが大きな成果を上げていることから、「仲間に入れて!」という希望が相次いだのだ。
しかし、ユーロ導入には、マイナス面もある。通貨が共通であるということは、金融政策も共通となる。政策金利や通貨供給量の変更などの金融政策は「欧州中央銀行」(ECB)が決定、各国の中央銀行はそれに従うことになるが、これが問題を引き起こす。
金融政策は登山者の「歩くペース」であり、本来は各国の体力(経済力)に合わせて決められるものだ。しかし、ユーロというザイルで結ばれている以上、各国は体力のあるなしにかかわらず、同じペースで登らざるを得ない。このため、経済力の強い国に合わせた金融政策が実施されると、経済力の弱い国が「待ってください…」と、ついてこられなくなる。反対に経済力の弱い国に合わせると、「遅すぎる!」と経済力の強い国から文句が出かねない。
さらに、深刻なのは、経済危機に陥る国が出てきた場合だ。ユーロ導入国は一心同体であり、経済危機に陥った国が出てきた場合には、資金援助などを実施して助け合う。ザイルで結びつけられている以上、動けなくなった仲間が出たら、荷物を持ち合い、場合によっては背負ってあげたりして前進して行かねばならない。しかし、援助には税金が使われることから、援助国の世論の反発を招くこともある。
その懸念が現実となったのが「ギリシャ危機」だ。ギリシャが財政破綻して動けなくなったことから、ドイツやフランスなどが懸命に引っ張り上げている。しかし、増え続ける負担に、「歩けない奴はおいて行け!」とギリシャの追放を求める声や、「それができないなら、単独で登るべきだ!」と、登山パーティーからの離脱を求める声も出始める。結束力が低下する中、ユーロの為替相場も、大きく下落してしまった。
筆者が参加した登山パーティーは、脱落しかけた人のザイルを引っ張りながら登頂を果たし、大きな達成感を味わうことができた。果たして、ユーロというザイルは、持ちこたえられるのか? 欧州経済は大きな試練に直面している。