大学時代の恋愛を引きずっている友人がいた。卒業後に結婚するはずが突然の破局、諦めきれない彼は、ひたすら彼女を待ち続けているという。そんな彼に、証券会社で働く友人が「損切りの下手な奴だな。さっさと諦めて、他の女性を探せ!」と気合いを入れている。
「損切り」とは、株式や外国為替などの取引で頻繁に登場する言葉。損失覚悟で、取引を打ち切ることを意味している。
株取引を例に取ろう。ある投資家が、100万円を投入して、株価100円の企業Aの株式を1万株購入した。業績や将来性から、150円程度まで値上がりすると判断してのことだ。
予想通り株価が上昇すれば問題はないが、思惑がはずれて下落することも珍しくない。100円だった株価が90円、80円と下落して行けば、損失は膨らんでいく。もちろん、80円を底に、株価が回復する可能性もある。しかし、業績がさらに悪化し、万一倒産ともなれば、投資した100万円すべてを失う恐れもある。そこで、一定以上に損失を拡大させないために、例えば、70円になったら目をつぶって株式を売却する。これが「損切り」であり、損失は30万円で確定することになる。
損切りには勇気と決断力が求められる。相場は様々な要因で変動、不安定な動きを見せる。業績などから値上がりが確実な株式でも、一時的に値を下げることは日常茶飯事だ。また、投資家は「この株は上がる」と信念を持っているだけに、思惑がはずれて下落すると、自分を否定されたような気分になる。そのため、株価が下落しても、「一時的に下がっているだけ。必ず上昇に転じる」と自分に言い聞かせ、なかなか諦められなくなる。
また、場合によっては「ナンピン買い」に出ることもある。例えば70円まで株価が下がった場合、損切りをするのではなく、株式を買い増すのだ。「70円で1万株購入すれば、前の取引と合わせて85円が採算ポイントとなる(平均購入価格が85円になる)。最悪でも100円には戻るだろうから、絶対に大丈夫だ」というわけだ。
しかし、これによって投資金額は膨れあがり、リスクも増大する。もし、株価が下落を続け、万一企業Aが倒産すれば、損失額は当初の100万円から170万円に膨らんでしまう。「70円で損切りしていれば、30万円の損失で済んだのに…」と悔やんでも後の祭りである。
損切りをどの水準で行うかは、投資家の考え方、市場の動きによって様々だ。損切りの水準を比較的近くにおき、「ダメだったら、さっさと諦めて、次に行こう」という投資スタイルがある一方で、損切りポイントを遠くにおき、ひたすら我慢するという投資スタイルもある。恋人に振られたら、すぐに他の相手を探すというフットワークの軽いタイプと、なかなか想いを断ち切れないタイプがあるのと同じだ。
しかし、いずれの場合でも、損切りをしっかりとすることが、投資には不可欠だ。相場の格言に「見切り千両、損切り万両」という言葉があるように、優秀なトレーダーほど損切りがうまい、と言われているのである。
どんなに好きでも、想いが報われないことは少なくない。未練を断ち切り、新しい恋愛に賭けることで、素晴らしい未来が開けることもある。投資の世界も同じこと。ある一線を越えたら、「相場が戻るかも…」という未練を断ち切り、新しい投資先を探す。これが、投資で利益を生む秘訣なのである。