株式市場の関係者がしばしば口にする格言の一つだ。相場が急落する場面で、この下落は異常で「もう」下がらないという見方が強い間は「まだ」下がる。反対に、「まだ」下がるという悲観論一色になった時こそが大底で、「もう」下がらないというのだ。
株価は、企業の業績や将来性などを反映する一方で、投資家たちの思惑による売り買いでも変動している。こうした投資家の心理戦が生み出す相場の動きには、ある種の「トレンド」や「癖」といった独特のものがある。株式市場に伝わる格言は、相場師たちの長年の経験から生まれたものなのだ。
「チャート」はこうした経験則を集めて、相場を予測する手段の一つだ。相場の動きをグラフや表などに記録、そこから大きなトレンドや転換点を読み取ろうとするもので、船の航海図のように見えることから「チャート」と呼ばれているようだ。
チャートには様々な種類がある。最も一般的なのは「ローソク足」と呼ばれるものだ。始値と終値に高値と安値を組み合わせたもので、形がローソクに似ていることからこの名が付けられた。江戸時代の日本で、米相場に使われたのが始まりとされ、始値より終値が高い場合が陽線、安い場合が陰線などと、古めかしい言葉が並ぶ。そして、「大陽線」「下影陰線」など、その形によって様々な分類が行われ、「上昇局面での大陽線は買い」「下降局面での下影陰線は底値のサイン」といった具合に、相場の極意が伝えられている。日本で始まったローソク足だが、現在では海外でも広く使われ、代表的なチャートの一つとなっている。
「移動平均線」も重要なチャートの一つだ。これは、日々の相場を「5日間」「1カ月」「3カ月」などと、期間をずらして平均値を算出、これをグラフ化して短期的な動きと長期的な動きに分類することで、相場のトレンドを読み解こうとするものだ。短期の移動平均線が長期の移動平均線を下から上に突き抜けた場合を「ゴールデンクロス」と呼んで「買いのサイン」とするなど、ローソク足同様に、いろいろな解釈と利用法がある。
チャートを使った相場の予測方法は、株式市場のみならず、外国為替相場や商品相場などでも行われていて、それぞれの市場の特性に応じた改良が加えられてきた。さらに、チャートだけではなく、相場を予測するための様々な分析方法が開発されてきた。
短期的な相場の振れを測定して、「売られ過ぎ」「買われ過ぎ」を判定する「オシレーター分析」、自然界の現象にも現れるという数の配列である「フィボナッチ数列」を利用した「エリオット理論」、一目山人なる人物が7年の歳月をかけて作り上げた「一目均衡法」など多種多彩だ。
また、近年では複雑な数学モデルとコンピューターを駆使し、金融工学の粋を集めたものも登場している。
チャートを始めとした相場の予測方法は、企業業績や景気指標といった株価や外国為替相場を決める要因、いわゆる「ファンダメンタルズ」を全く考慮していない。こうしたことから、経済学者などの中にはその信頼性を疑問視する声も多い。そのため、チャートなど使った予測法を「テクニカル分析」と呼び、「ファンダメンタル分析」(ファンダメンタルズ分析)とは区別しているのだ。
「もうはまだ…」の格言を生み出したのは、江戸時代に米相場で大儲けした本間宗久という伝説の相場師だといわれている。その投資手法は天才的で、今でもその解説本が多数出版されるなど、信奉者が多い。
投資家たちの心理を読んで相場を予測するチャートだが、あくまで参考情報の一つに過ぎない。これに頼りすぎるのは危険であることを肝に銘じておく必要があるだろう。